大腿骨頚部骨折は、高齢者に多い骨折の一つであり、理学療法士として病院で働いているとよく見る疾患です。
大腿骨頚部骨折は転倒によるものがほとんどで、骨折すると約95%は手術適応となります。
今回は、大腿骨頚部骨折に対する各手術の特徴とリハビリ方法について解説します。
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大腿骨頚部骨折の約95%は手術療法を行う理由
大腿骨頸部とは、下の図の位置を指します。頚部は図のように細いため、剪断力(ずれる力)が働きやすく、非常に折れやすい部位です。
加えて大腿骨頚部は関節内にあり、ここは血液供給が乏しく、外骨膜も欠いています。
つまり、大腿骨頚部が折れてしまった場合には、骨癒合が得られにくい部位でもあります。
骨折線が保たれていれば骨癒合は得られますが、転位(ずれたり、連続性が遮断)した場合には、手術適応となります。
Garden分類と手術の選定
大腿骨頚部骨折は、上記で説明した通り骨癒合が得られにくい部位でもあるため、慎重に治療方法が選択されます。
骨折の程度や治療の選択には、Garden分類がよく用いられています。
Gardenの分類では、stageⅠ〜Ⅳで重症度が判断されます。
引用画像)1
stageⅠ | 不完全骨折 |
stageⅡ | 転位のない完全骨折 |
stageⅢ | 部分転位を伴う完全骨折 |
stageⅣ | 完全転位を伴う完全骨折 |
これらの分類は主に単純X線で判断されるのですが、境界型も存在し、どちらとも言えないstageも存在します。
主流としては、非転位型(stageⅠ・Ⅱ)と転位型(stageⅢ・Ⅳ)の2つで大別し治療が選択されています。
非転位型では観血的骨接合術、高齢者における転位型では人工骨頭置換術が選択されます。
大腿骨頚部骨折に対する観血的骨接合術
観血的骨接合術(Open Reduction and Internal Fixation:ORIF)とは、文字通り血を観る手術ということです。
皮膚を切開して、骨をワイヤー・プレート・スクリューなどで直接固定する手術のことをいいます。
病院では、よくオリフ(ORIF)と言ったりもしています。
ORIFには様々あり、大腿骨頚部骨折に用いられる手術としてはCCSやハンソンピンによる骨接合術が選択されます。
ハンソンピン
引用画像)2
CCSやハンソンピンの最大のメリットは、侵襲が比較的小さいということです。
ですが、プレート構造を持たない手術ですので、固定性に若干難があります。
骨折線が遠位すぎる場合には大転子付近で再骨折したり、ピン自体がズレて頚部が短縮するリスクもあります。
大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術
転位型(stageⅢ・Ⅳ)の骨折では、高齢者においては人工骨頭置換術が適応となります。
詳しくは、こちら↓の記事を参照してください。
参考記事)
引用画像)2
中には人工股関節全置換術(THA)を施行する場合もあります。ですが、侵襲が小さいことや脱臼率が低いなどの理由で人工骨頭置換術を施行する場合がほとんどです。
人工骨頭置換術では、その後の痛みの程度はORIFに比べて少ないことが報告されています。このことは、僕の経験上からしても同意見です。
軟部組織の侵襲は人工骨頭置換術のほうが大きいのですが、骨頭を丸ごと交換しているので骨性の痛みはほぼありません。そういったことから皮膚や筋肉が癒合すれば、痛みは少なくて済みます。
デメリットといえば、脱臼してしまう可能性があるということです。
術式には、後方アプローチや前方アプローチなどがあります。
後方アプローチ
大腿筋膜を切開し、梨状筋や外旋筋群を切離します。
脱臼肢位は、股関節の屈曲・内転、内旋です。
前方アプローチ
大腿筋膜を切開し、中殿筋と大腿筋膜腸筋の間から侵入します。
脱臼肢位は、伸展・内転・外旋です。
脱臼率について
いくつもの研究報告がありますが、概ね2%前後といったところです。
後方アプローチのほうが脱臼率は高く、THAでは更に脱臼率は高くなります。
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リハビリ方法
大腿骨頚部骨折で起こり得る機能障害としては、疼痛、関節可動域制限、筋力低下が挙げられます。
また、二次的に発生する深部静脈血栓症、骨頭壊死などにも注意しながらリハビリを進めていくことが大切です。
関節可動域訓練
痛みのあるうちは愛護的に股関節を動かし、関節可動域の維持・改善に努めます。
人工骨頭置換術の症例では、禁忌肢位にならないように注意します。
痛みにより股関節内転筋の筋緊張が高まるケースもあり、脱臼を助長してしまいますので、マッサージや痛み止めなどで対応してます。
筋力増強訓練
股関節周囲(特に大殿筋や中殿筋)の筋力が低下している症例が多く、それらの筋力増強訓練をしていきます。
参考記事)
また、膝関節伸展筋力と転倒との相関性が高いとの報告もあるため、膝関節周囲の筋力増強訓練も積極的にしていきます。
歩行訓練
骨折の程度が軽度でもハンソンピンの場合は、荷重時に痛みを伴うケースがあります。
その場合、第一に骨折部が不安定なために起こる疼痛を考え、術部下肢への負担を減らしながら歩行訓練を進めていくことが大切です。
日常生活動作(ADL)訓練
早期離床は、肺炎や深部静脈血栓症、認知機能の低下などの廃用症候群の予防にもなるため、歩行訓練と平行して進めていきます。
術後、まずは車椅子へ一人で移乗しトイレや整容、食事に行けるように車椅子の使い方などを指導しています。
大腿骨頚部骨折後に起こる合併症
骨癒合までには、ある程度の期間を要し、大腿骨頚部骨折であれば約12週(3ヵ月程度)で骨癒合が終了します。
また、仮骨が形成されるのが約1ヵ月程度であり、仮骨形成までは少なからず骨癒合は十分でないと考えて慎重にリハビリを進めていく必要があります。
骨接合術後に起こる合併症
手術後にみられる異常としては、偽関節(骨癒合が得られないまま骨の再生が終了してしまうこと)や再転位、骨頭壊死などがあります。
これらが起こり得る確率は、非転位型で5%、転位型で30%ほどです。
もし、これらの合併症が生じた場合には、高齢者であれば人工骨頭置換術または人工股関節全置換術が診療ガイドラインでも推奨されています。
僕が経験した症例の話ですが、ハンソンピンの手術後にいつまで経っても骨折部付近の痛みが治まらない患者さんがいました。
その患者さんは、歩くたびに骨折部付近が明らかに「ゴリゴリ」と音が鳴っていたので、骨折線がズレているなというのがわかるほどでした。
実際にX線で検査すると、やはり止めていたピンが手術直後の写真と比べて、明らかにズレていました。
その後に、ORIFでの固定は難しいとのことで、結局人工骨頭置換術の再手術を受けた後にリハビリを再開することとなりました。
このように骨折部がズレている場合にはX線でも判断できます。
ですが、骨頭壊死に至っている場合にはX線では映らず見落とされることもしばしばあります。
骨頭壊死に関しては、MRIで確認することが大切です。
また、偽関節や骨転位、骨頭壊死などの骨折後の異常は、血液検査からも炎症反応として検出されることも多いです。
参考記事)
骨折であれば、1ヵ月前後で炎症反応は基準値内になるので、それよりも明らかに長引いているようなら上記の合併症を疑って検査しても良いかと思います。
大腿骨頚部/転子部骨折の合併症についてはこちら↓の記事で詳しく解説しています。
まとめ
大腿骨頚部は折れやすく、骨癒合も得られにくい部分でもあるので、手術やその後のリハビリでは少し慎重なくらいが良いのではないかと思います。
もちろん、安静にしすぎる必要は全くないのですが、無理に荷重をかけ続けると、偽関節や転位、骨頭壊死などになるリスクもあります。
そのことを念頭に置きながら、術後のリハビリに取り組むことが大切です。
引用画像
1)理学療法 第29巻 第6号 再考 大腿骨頚部/転子部骨折の理学療法.2012.6.p613
2)理学療法 第28巻 第7号 高齢者の骨折Update.2011.7.p877
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