療法士は、患者さんとの本格的な運動の前にベッド上で太ももをモミモミ・・・腰をモミモミ・・・ってやりますよね。
マッサージとは、それのことです。
マッサージは療法士の治療手段の一つであり、リハビリでもよく用いられます。
マッサージと一言に言っても、実にいろんな方法があります。
どんなマッサージの方法があって、どんな効果があるのか、ここで整理しておきましょう。
実はマッサージの方法だけを理解していても効果は低い場合があります。
マッサージの効果を最大限に高めるためのポイントもご紹介しますので、参考にしてください。
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マッサージの方法
マッサージは元々フランスで生まれた治療法であり、日本では指圧によるあん摩が生まれました。
とまぁそんな歴史はさておき。
まずは、マッサージをする際に身体のどの部分を使うかを説明しておきます。
主には、
・母指
・四指
・二指
を使いますが、指を使う際は比較的表層で小さな筋肉に対して有効です。
大きな筋肉に対しては、
・手掌
・手根
・指顆(猫の手の形を作り、指の背側)
を使います。
例えば、大殿筋など大きな筋肉に対して指だけでマッサージをすると、いずれ指を痛めてしまいますので、注意が必要です。
指課は、わりと深層の筋(例えば、股関節外旋六筋)に対して使いますね。
あとは、肘や前腕部分を使ってすることもありますが、リハビリ場面では使っているのをあまり見たことがありません。
ちなみになんですが、殿部(お尻)が凝っている人へのマッサージって力がいるので指を痛めたり、疲れやすかったりしますよね。
個人的には、踵でお尻を「ふみふみ・・・」するマッサージは簡単でしかも効果的・・・
だと思っているのですが、これをリハビリ場面で他人施すのはモラル的にどうかと思いますので、
気心の知れた家族や友人になら試してみても良いでしょう。
※気心の知れた人へのマッサージ方法
ここからは、マッサージの基本的手技について解説します。
擦る(こする)
軽擦法(けいさつほう)と呼ばれるマッサージ方法です。
このマッサージの特徴は、操作時に皮膚に吸着しません。要するに皮膚ではしっかりと摩擦を起こします。
筋に対しては、一定の圧力を加えますが、その力は比較的小さなものです。
軽擦法は、全身各部に適応できます。
圧を加える手の形は、各部位に応じて変えていきます。
揉み動かす
揉捏法(じゅうねつほう)、揉撚法(じゅうねんほう)といわれる方法です。
このマッサージは、皮膚に密着させて皮膚の摩擦は起こさず、筋肉に対してアプローチする方法です。
母指や手掌、手根を使ったり、または筋をつまむなどして、筋肉をリズミカルに揺り動かします。
強く揉む
強擦法(きょうさつほう)といわれる方法です。
揉んだり、押したりする方法であり、余程硬くなっている筋に対して有効な方法です。
ただし、揉み返しが起きないようにマッサージ中はクライアントへの十分な説明と配慮が必要になります。
押す(圧迫する)
母指や手掌、四指、二指、指顆などを使い、持続的に筋を圧迫する方法です。
この方法は圧迫法といわれます。いわゆる指圧のことです。
筋が一箇所で凝り固まっている場合(きんこうけつ)には有効な手段です。
トリガーポイント治療や筋膜リリースなどはこの方法に該当します。
叩く
叩打法といわれる方法です。
軽快でリズムカルな衝撃力で身体を刺激します。
この方法は、美容院のブロー前後に行われるイメージですね。
マッサージにはどんな効果があるの?
僕自身も普段マッサージの治療手技はよく使います。
患者さんから「マッサージはどういう効果があるのですか?」と質問を受けることがありますので、しっかりと説明できるようにしておきましょう。
マッサージは、
・皮膚
・筋
・循環器系
・神経系(痛みなど)
などに組織学的変化を与える効果があります。
また、リラクセーション効果が得られることで精神面の安定化も図ることもできます。
ここからは各組織の効果について解説します。
皮膚
皮膚は最も表層にあるので、軽くさする軽擦法を使います。
術後であれば硬く瘢痕化し、癒着した皮膚をマッサージにより剥がしていくことができます。
皮膚の伸張性が低下していることで関節が動かしにくくなることもありますので、マッサージは効果的です。
筋
筋硬結(一部分の筋線維が硬くなる)を圧迫法や筋膜リリースで解していくことができます。
マッサージにより筋血流量を改善し、発痛物質(痛みを引き起こす物質)が排出されることで、痛みを抑制する効果があります。
循環器系
リンパ管や毛細血管を刺激することで、浮腫(むくみ)や血液のうっ滞を改善する効果があります。
神経系(痛みなど)
マッサージは筋緊張を緩和する効果があり、筋緊張の緩和は感覚受容器の反応を良くする効果もあります。
また、マッサージにはリラックス効果もあるので、精神面の安定化、痛みの軽減などの効果があります。
筋線維の走行を意識してマッサージを行う
揉んだり、圧迫を加えたりする際にターゲットとなるのが筋肉です。
筋肉は筋線維でできており、この線維の走行を意識してマッサージを行うことが大切です。
筋線維の形状には大きく分けて2つあります。
・紡錘筋
・羽状筋
これらの筋線維の形状を意識してマッサージを行うと効果的です。
筋線維を意識したマッサージには、
・横断マッサージ
・機能的マッサージ
の二つの方法があります。
マッサージの方向(紡錘筋を例に)
横断マッサージ
筋線維に対して垂直方向に指や手掌などを動かしていきます。
横断マッサージは、隣接する筋同士の癒着を剥がしたり、滑走性を改善する効果があります。
機能的マッサージ
筋線維に対して、平行に指や手掌を動かしていきます。
機能的マッサージは、筋緊張の亢進や筋n短縮、血液循環の改善に効果があります。
患者さんが気持ち良いと感じやすいのは横断マッサージの方ですが、目的に合わせて使い分けると良いでしょう。
マッサージの禁忌
マッサージは直接皮膚や筋肉に圧を加え、組織の機能や循環を良くする効果があります。
しかし、かえって既存の症状を悪化させないためにも事前の情報収集が重要になります。
禁忌
・皮膚に感染症や傷、炎症がある
・筋の断裂
・反射性交感神経性ジストロフィー
・危険な循環障害ある(深部静脈血栓症や重度心不全など)
深部静脈血栓症がある場合は血栓が解離し、血液の流れに乗って肺に到達すると命に関わる肺塞栓を起こす危険があります。
重度の心疾患では、四肢末端に浮腫がみられることがあります。
この場合のマッサージは、心臓に血液を返すことで逆に心臓に負担をかけてしまい心疾患を悪化させる恐れがあります。
など。
擦ったり、揉んだりするだけでは効果は乏しい
実は、マッサージの方法だけを意識していてもあまり効果はありません。
どの方法のマッサージが良いかは患者さんの症状や「心地良さ」によって変えていくべきです。
入院している患者さんで多いのが、術後で痛みが強く、痛みのせいで筋を固めてしまっている人もいます。
特に痛みがあるわけではないのに、無意識に筋緊張を高めてしまっている人もいます。
筋緊張を高めている人に、マッサージを施してもほとんど効果はありません。
下手をすると不本意にも「余計に痛くなった」などと言われかねません。
わかりやすく言うと、上腕二頭筋を解そうと思ったとして、力こぶを作っている上腕二頭筋にマッサージをしても効果がないのはわかりますよね。
ですので、できる限り筋緊張を緩めた状態(力が入っていない状態)を整えながらマッサージをしていくことで最大限のリラクセーション効果が得られます。
では、どのように余計な筋緊張が入らないようにしていけば良いのか以下に解説します。
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リラクセーション効果を最大限に高めるポイント
姿勢を安定させる
背臥位でマッサージをすることは多いですが、大腿部をマッサージをする際を考えてみましょう。
実は解剖学的に大腿骨はやや湾曲しています。
大腿骨の形状
ですので、背臥位になり足を真っすぐに伸ばした状態では、大腿部後面にわずかな隙間ができてしまいます。
それだけで床と接地している面積が分散されず姿勢が不安定になります。これだけで筋緊張を高めてしまいます。
膝関節の伸展制限があると、なおさら筋緊張を高めやすくなりますね。
背臥位にする場合にも、大腿部下にクッションを敷くなどして、床との隙間を埋めておくと姿勢が安定します。
他の部位でも同様に考えていくと良いです。
特に円背の人では、両肩が床から浮き上がってしまいますよね。
そういう人にも肩や腕の下にクッションを敷き安定した姿勢を作ると良いでしょう。
大腿部下や肩の下にクッションを入れると良い
側臥位でも同じように姿勢が安定しているかに注目します。
側臥位では、上側の腕や足に力が入りやすいので、クッションを腕で抱いてもらったり、大腿部から下腿の間にクッションを入れると良いです。
側臥位の安楽肢位
他動的に関節を揺らしてみる
緩めたい関節に対して他動的に少し揺らしてみましょう。
この方法は筋緊張が高まっているかの評価にもなります。
そして、この方法はそのまま治療にも活かせます。
療法士の皆さんも普段、患者さんの手や足を揺らしてみて筋緊張が和らぐことを経験している人もいると思います。
これは揺らすことで運動覚を刺激しています。
運動覚を刺激することで、患者さん自身が無意識に力が入っていることをフィードバックできるのです。
もう一つのポイントは、関節緩みの位置付近で揺らすことです。
関節緩みの位置は靭帯や関節包が最も緩んだ位置になります。
つまり、より筋への刺激が加わりやすくなり、筋緊張が落ちやすくなるのです。
例えば、股関節周囲の筋緊張を落としたい場合は、股関節屈曲30°、外転30°、軽度外旋位が最も筋緊張を落としやすくなります。
肩甲上腕関節だと外転55°、水平内転30°が緩みの肢位ですね。
このポジションで他動的に少し揺らしてみましょう。
この方法は僕も臨床でよく使いますが、筋緊張が緩むのをよく経験します。
拘縮などて緩みの位置まで持っていけない場合には、どのポジションなら他動的に揺らしやすくなるかを探っていくと良いでしょう。
自動運動
他動的に動かしただけでも、比較的筋緊張が緩むことは多いです。
それでも緩まない場合には、患者さんに軽い力で動かしてもらいましょう。
療法士はその動きに合わせていきます。
自動介助で動かしているうちに、
・感覚が入力される
・筋血流が改善する
・相反神経抑制が働く
などの効果により、筋緊張は緩みやすくなります。
筋肉が適度に短縮位の状態でマッサージを行う
極端な話をすると、ピンピンににストレッチされた筋肉をマッサージしても効果はないですよね。
ですので、ある程度は筋肉を短縮位にした状態でマッサージをします。
例えば、ハムストリングのマッサージをしようと思えば、膝関節伸展位よりも軽度屈曲位(30~60°くらい)でマッサージをするほうが効果的です。
マッサージの注意点
マッサージは、リラクセーションの方法の一つです。
身体と精神は密接に関係していて、身体だけ解れることに注力するのではなく、精神も解れているかを考えなければいけません。
心地良いかを訊く
マッサージの「心地良さ」は主観的要素がとても強いです。
「循環が良くなっているなぁ」
「筋肉が解れているなぁ」
と変化に気づく人もいますが、なかなか気づかない人もいます。
あとあとになって、「あのマッサージのお陰で今日は腰が痛くない」と気づき、好感触に思ってくれる人もいますが、それはマッサージ中が心地良かったことが大きな要因です。
大事なのは、その時のマッサージが心地良いものかどうかです。
療法士も「今のマサージは痛いけど、あとで効いてきますよ。」なんて自信を持って言えればいいですが、
クライアントに「このマッサージは痛いな~、余計痛くなったんじゃないか?」とずーっと思われたら、もう二度とあなたのマッサージを受けてくれないかもしれません。
ちょっとしたトラウマになりますのでね。
・マッサージの強さ
・姿勢はしんどくないか
・痛くないか
など。
今のマッサージが心地良いかを丁寧に聞訊きましょう。
「気持ちいいです。」と言ってもらえたら、そのマッサージは効果的と判断しても良いです。
しつこく聞きすぎると嫌がられることも多いので、表情やちょっとした姿勢の変化などの反応を見ながらマッサージの方法を変えていくと良いでしょう。
説明と声かけを行う
当たり前のことですけど、意外とできていない人もいます。
療法士からの説明や声かけもなく、いきなり足を動かされると途端に筋緊張が高まります。
痛みがある人は、同時に筋緊張も高いと考えておいても大袈裟ではないです。
「足を持ち上げますね」
「この部分をマッサージしますね」
説明と声かけは丁寧にしましょう。
たったそれだけでクライアントの安心感は全然違います。
身体は冷えていないか
マッサージも上手くできている。
姿勢も安定している。
声かけも丁寧にしている。
でも、気温10°でめっちゃ寒い・・・
いやいや、効果あるわけないですよね。
寒さで筋肉がカチコチに固まってしまいます。
室内の温度は25°くらいが良いですが、人それぞれ適温は違いますので「寒くないですか?」と訊いてみましょう。
また、患部を温めてからマッサージを行うと循環器系が改善されやすくなりますので、マッサージ前に温熱療法(ホットパックなど)をしておくのも効果的です。
他にも気を付けるところはありますが、特にこだわりの強い人には一つずつ「どうすれば心地良いのか」を探っていきます。
こういった精神への配慮ができると、リラクセーション効果は最大限に高まります。
まとめ
マッサージは間違いなく快刺激を与える最高の治療法です。
上手くできれば身体的効果は高まりますし、それよりもクライアントの満足度は高まり、信頼関係を築きやすくなります。
もちろんマッサージだけがリハビリではありません。
リハビリ業界では、マッサージだけやっててもリハビリにならないとよく言われています。
マッサージで筋力が付くわけないではありませんのでね。
でも、筋トレは療法士が教えれば、患者さんでも自分でできる運動です。
マッサージの機器もありますが、他人が施すマッサージは格別です。
何千円を払ってでも受けたいという人もいますので、今も昔もマッサージは需要が高いと思います。
ということは、マッサージが上手くできれば、あなたにしかできない技術になるのではじゃないでしょうか。
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