療法士の実習生では、症例レポートを作成していくかと思います。
ここ最近は、レポートを作成しないケースもあるのかも。
いずれにしても、検査・測定、情報収集した内容を最終的にどう解釈し、何が問題なのかを整理していきます。
この整理していく作業はとても大変なのですが、理学療法士として更に成熟するための大切な工程でもあります。
ただ、はっきり言って検査・測定を実施するだけなら、練習すれば理学療法士じゃなくても誰でもできます。
理学療法士の専門性とは、検査・測定から出てきた結果を正しく解釈し、ベストな治療を選択できるところにあると僕は考えています。
これまでに僕のブログでは、「リハビリ評価 記事 まとめ」についてまとめてきました。
上記のリンクから、知りたい検査・測定の項目をクリックすれば検査の意義・目的が詳しく書いています。
それらを読むだけでも実施した検査結果の解釈は深まるはずです。
この記事では、さらに突っ込んで患者さんの全貌を把握するための「統合と解釈」「問題点の抽出」について解説します。
レポート形式で解説したほうがわかりやすいと思いますので、実習生などは担当の症例さんに当てはめてみてください。
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統合と解釈とは?
・検査・測定の結果
・カルテや他部署からの情報
・問診
など。それぞれがまだバラバラな情報です。
それらを統合し、解釈していくのです。そのままの意味ですね。
バラバラの情報を統合し、情報を整理し解釈することで、患者さんの問題点が浮かび上がってくるのです。
「統合と解釈」を考えていく過程が理学療法士の専門性です。
あとは出てきた問題点に対して、治療プランが立案されるわけですね。
「統合と解釈」と「考察」の違いについて
「統合と解釈」と「考察」ってどう違うの?という疑問を持つことがありますよね。
少しだけその違いを説明しておきます。
「統合と解釈」はその名の通り、バラバラにある情報を統合して解釈することをいいます。
そして、統合と解釈後に問題点が抽出されます。
その問題点に対して、治療をしてみて"結果どうだったか"を整理する作業のことを「考察」といいます。
少し意味合いが違いますよね。
まずはICFの構造を理解する
「統合と解釈」の具体的な話に進む前に、問題点の整理の仕方を解説しておきます。
問題点を整理するときに活用するのが2001年5月にWHOで採択されたICF(International Classification of Functioning,Diisability and Health)です。
ICF▼
ちなみにICFは国際障害分類(ICIDH)に代わるものです。
ICFを効果的に活用するには・・・
ICFの特徴として、ICIDHを比べた場合では、
・環境因子、個人因子を追加
・マイナス面だけでなく、ポジティブな面も挙げる
これらを追加することで、患者さんのマイナス面を補う"強み"はどこなのかが整理しやすくなります。
患者さんのマイナス面、つまり悪い症状ばかりに目を向けているとどうなるのか?
例えば、下肢の運動麻痺が検査結果からわかったとします。それにより歩行能力が低下していることも関係性を説明できたとしましょう。
運動麻痺が原因で歩行能力が低下していると解釈できます。言い換えると運動麻痺が改善すれば歩行能力は向上するとも言えます。
ですが、運動麻痺が必ずしも治るとは限りません。
そうなると、どうやって歩行能力を向上させよう??となり、行き詰ってしまいます。
これがマイナス面だけをみている落とし穴なのです。
これが従来のICIDHの考え方でした。
その点を補うためにICFでは、ポジティブな面も見ています。
例えば、運動麻痺で足が動かしにくくなっている。
だけど、感覚障害がないというポジティブな面があるなら、運動学習は図りやすくなります。
そうすると、歩行能力は向上していきますよね。
ボトムアップとトップダウンを上手く使い分ける
問題点を挙げていく工程に、ボトムアップとトップダウンがあります。
リハビリで使わるボトムアップとトップダウンは以下のように解釈されています。
ボトムアップ | あらゆる検査を行い、問題点をすべて出してそこから改善可能な部分を挙げていく |
トップダウン | 患者さんの訴えやニーズに合わせて、極力無駄のないように評価していく |
詳しくは「リハビリ評価で使われるボトムアップとトップダウンの違いとは?評価のスピードを飛躍的に向上させる考え方」を参考にしてください。
まずは、ボトムアップ的に活動制限、参加制約、環境因子、個人因子の良い面、悪い面を洗い出していきます。
こればっかりはいくら仮説を立てても空想にしかならず、実際に見たり、聞いたりして確かめるべきです。
理学療法士が診る基本動作(寝返り、起き上がり、座位、起立、立位、移乗、移動)に問題がないかをくまなく観察し、問題点を抽出していきます。
参加制約は、問診や他部門情報などからくまなく情報収集をしておきましょう。元々のどんな仕事をしていたのか、家事はしていたのか、趣味や生きがいは何かなど。
環境因子として、家族と一緒に住んでいるのか、介護は協力的なのか。
個人因子として、リハビリのやる気はあるのか、痛がり・怖がりなどのネガティブな性格、前向きなどのポジティブな性格など。
実際にこれらは専門家でなくても何となく問題点や強みは挙げられそうですね。
そして、疾患から考えられる機能障害をトップダウン的に問題点絞っていきます。ここらが理学療法士の専門性を発揮するところでもあります。
例えば、活動制限に歩行の安全性、持久性低下、参加制約に家事動作困難、買い物困難などの問題点が挙がったとしたなら、
・どんな機能障害があるのか
・機能障害の原因は何なのか
・機能障害は治るのか
・機能障害を補う機能や手段は何なのか
・活動制限を引き起こしている機能障害は何か
などなど・・・
これらを統合と解釈で整理していくのです
そして、心身機能・身体構造と活動、活動と参加などの各構成要素との相互関係も解説していきます。
統合と解釈のポイント
レポートでは、実際に何を書いて、どういう流れで書いていけば良いのかって悩みますよね。
正直な話、これといった正解があるわけではないのですが、話の軸を知っておくとかなり整理しやすくなります。
話の流れはこの3つ
・健康状態(変調または病気)と機能障害の関係性
・機能障害と活動制限との関係性
・活動制限と参加制約、(環境因子や個人因子など)の関係性
大きく分けるとこの3つです。
これら3つを軸に統合と解釈が展開されていきます。
そして、これら3つの話の流れを作る上で細かな情報収集と検査・測定結果を駆使して説明していくのです。
では、症例を用いて「統合と解釈」の記載するポイントを詳しく解説していきます。
(症例は僕の過去の経験から、架空の患者さんを想定して記載しています。)
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健康状態(変調または病気)と機能障害の関係性について
本症例は70歳代女性であり、アテローム血栓性脳梗塞により左片麻痺と注意障害、失認などの高次脳機能障害を呈した症例である。
本症例は○月○日に発症した脳梗塞であり、CT初見および医師からの情報収集より、主幹動脈は中大脳動脈の広範囲の脳梗塞であるとの所見である。
中大脳動脈は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の外側を占めており、これらの部位が障害を受けると運動麻痺(上肢に強い運動麻痺)、感覚障害、失行症、失語症、注意障害など多彩な高次脳機能障害がみられるようになる。
この患者さんでは、どんな病気でどんな症状が出やすいのか、参考書や文献などを記載しながら説明すると良いです。
次に実際に患者さんではどんな症状が出ているのか。検査・測定、情報収集した結果を記載していきます。
本症例の検査・測定結果より、身体的特徴として左の運動麻痺、感覚障害、右の筋力低下があり、高次脳機能障害として認知機能の低下、失認、注意障害がみられた。
左は運動麻痺がみられたため、本症例の疾患でもある脳梗塞より起こり得る皮質脊髄路の障害を疑い、検証を行った。
腱反射高度更新、病的反射陽性と皮質脊髄路の障害を示唆する所見がみられた。また、ブルンストロームテストでは下肢stageⅢ、上肢stageⅡ、手指stageⅡ、筋緊張検査でも痙性がみられた。
運動麻痺かどうかを知るためには、片麻痺機能検査だけでなく、CT・MRIなどの画像所見、深部腱反射や病的反射、筋緊張検査などを絡めながら解説すると説得力が増します。
どう見ても運動麻痺がある場合には、それほど多くの情報を統合する必要なないのですが、ラクナ梗塞など極軽度の運動麻痺がある場合や小脳障害などとを鑑別する際には、情報は多いほど何が原因で今の症状が出ているのかがわかるようになってきます。
感覚検査では、左上下肢では表在・深部感覚ともに中等度の鈍麻がみられた。
右側下肢筋力は、MMTで概ね4レベルで比較的筋力は保たれている。
例えば、病気によって筋力が低下したのか、寝たきりによって筋力か低下しているのかで原因が異ります。
また、元々あまり動かなかった人や超高齢者(90歳以上)ではそもそも筋力が低下している場合があるので、病前の生活も記載し、なぜ筋力が弱いのかも考えられると良いです。
筋力低下の原因も文献を用いてみると説得力が増します。例えば、「津山によると絶対安静の状態では1週間で10~15%の筋力低下がみられると報告されている。」など
認知機能に関しては、改訂長谷川式知能評価スケールにて24/30点と認知機能は比較的保たれてはいるが、年齢の割にはやや点数は低い。元々家事全般をしていたことなども考えると今回の脳梗塞により認知機能はやや低下しているものと考える。
高次脳機能障害として、身体失認、半側空間無視は起居・移乗時の左上下肢忘れなどの観察から疑った。
失認の検査として、線分二等分試験、線分末梢試験からも問題点として挙げられる。
注意障害は、STの机上課題として、かな拾い、TMT-Aで200秒(参考:60歳代のカットオフ157.6秒)、TMT-Bでは最後まで実施不可能であり、特に注意の選択性、分配性に難ありだとわかる。また、「ベッドサイドにあるタオルやリモコンなどに気を取られ、動作に集中しない」などの観察より注意の切り替え(転導性)も難しい。
高次脳機能障害は、実際に日常生活でどんな症状が出ているのかがとても重要です。 検査結果ではどんな結果で、日常生活ではどんな症状が出ているのかを記載しましょう。
バイタルサインは、血圧、心拍数安静時、運動時、姿勢時ともに問題はなく、医師に現状報告をするとバイタルサインは安定しているとのことであった。理学療法評価及び訓練時のバイタルサインにおいては、脳卒中治療ガイドライン2009を参考に、目標とする血圧レベルは少なくとも140/90mmHg未満とする。
そして、それらの結果を踏まえてこの患者さんはバイタルサインに問題があるのかないのか、医師は何と言っているのかを記載します。
さらに、文献ではどうなのか。この患者さんは脳卒中ですので、ガイドラインではどのような数値が推奨されているかを記載しておくと説得力が増します。
機能障害と活動制限との関係性
本症例のデマンドは「自宅に帰りたい。」とのことであり、リハビリ意欲も高い。しかし、家族構成から介助者は75歳の夫となり、老老介護となり得える。そのため互いの身体活動を疲労することなく行え、介助量が軽減できる環境調整が必要になってくる。
患者さんの全体像
デマンド・主訴・ニード
患者・家族は何を望んでいるのか。
今現在の病棟での環境はどうなのか。
それらを考慮しながら統合と解釈を書いてきます。
現在の基本動作は寝返り・起き上がりは一部介助、座位は監視、車椅子への移乗は一部介助、歩行は平行棒内で短下肢装具を使用し一部介助の状態である。
順に基本動作について述べていく。
まず寝返り動作において、動作は頭部ギャッヂアップはみられ、上部体幹の屈曲・回旋はみられず、麻痺側上肢は置き去りになっている。また、非麻痺側下肢でベッドを蹴り骨盤を寝返る方向へ回旋させる。MMTでは体幹屈曲、回旋ともに2であることで体幹の動きがみられず、左上下肢の運動麻痺によりそれらを動かすことができない。さらに身体失認、注意障害の影響により、左上下肢を寝返る方向へ移動させるなどの代償もみられない。これらが原因で寝返り動作の自立度が低下していると考える。
次に起き上がりについて、
・・・・・・以下、省略・・・・・・
寝返り・起き上がり
このように、観察された基本動作と出てきた検査結果を繋ぎ合わせていく作業をここでしていきます。
重要なのは自分の行った検査・測定の結果と基本動作の問題点を繋げていくことです。
もし、動作がちゃんと見れていなければまた動作観察をすれば良いですし、足りない検査があったのなら追加で行います。あくまで仮説レベルの妄想ではなく、必ず事実を述べていくことです。
次にADL障害について述べていく。
上記基本動作能力の低下により、車椅子座位は安定しており食事、整容は修正自立でセッティングのみ介助、トイレ動作は立位バランスが不良であることで下衣の上げ下ろしに介助を要す。
・・・・・・以下、省略・・・・・・
(書くに越したことはないですが。)
基本動作能力が低下していることでADLにどう支障を来しているのかを繋げていくことが大切です。
機能障害の予後について、二木の予後予測によると、・・・(※文献を記載すると良い。)
・・・・以下、省略・・・・
リハビリがうまく進んだ際には、これくらいは回復するだろうといった指標として二木の予測などのを活用しましょう。
例えば、意識障害があったり、バイタルが不安定でリハビリが進まなければ機能回復は難しいですし、患者さんがリハビリを嫌がっても文献通りには機能回復はしていきません。それらのマイナス面も考慮した統合と解釈ができると良いです。
活動制限と参加制約、環境因子の関係性
本症例のデマンドは「自宅に帰りたい」である。家族構成は夫と二人暮らしであり、夫も介助も可能であるが夫の年齢は70歳。
夫のデマンドとしては、「妻一人で何でもできるようになってほしい」とのことである。しかし、前述したように予後予測を踏まえてもADL全般に介助は必要になってくると考える。
そのためには患者さんや家族が「どんな生活を望んでいるのか」を知ることが必要になっていきます。
患者さんや家族は専門家ではありませんので、予後予測を大幅に外していることも当然あります。ですので、理学療法士の視点と患者さんや家族が望む点を擦り合わせていくことが大切です。
最も介助を要するADLとしてはトイレ動作と考える。そのために必要な基本動作(NEED)としては、起立、移乗、立位、移動が挙げられる。
デマンド・主訴・ニード
本症例は元々家事全般を担当しており、夫は関与していなかったとのことである。それらの役割を今後は夫がしていくことを考えると本症例の介護負担を介護サービスの利用で解消していくことも検討していかなければならない。
また、自宅環境は2階建てで寝室は2階。現在基本動作全般に介助を要し、予後予測を踏まえると階段昇降は難しく、1階への移動も勧めていく必要がある。
ICFを用いて「問題点を抽出」
ざっと思いつくまま「統合と解釈」を記載してました。
「問題点を抽出」は以下のように記載します。
検査・測定をする前に、予め仮説を立てながらトップダウン的に評価をしていくと「統合と解釈」も比較的楽にできます。あとは文章をどうやってまとめていくかの作業になります。
統合と解釈を書くときはもっと詳しく記載して下さいね。
文献なども記載しながら解説していくとかなり良いレポートになると思います。ここで記載しているものはほんの一例として参考程度にしてもらえると幸いです。
問題点の抽出ができれば、目標(ゴール)設定をしていきます。
理学・作業療法士は必見!