骨折や靭帯損傷後などで、一時的に下肢への荷重量を制限する場合があります。
荷重開始の時期は、損傷の程度から医師が判断して、リハビリが処方されます。
骨折や靭帯損傷後の手術であれば、まずは関節の可動域を改善すること、そして筋力をできるだけ落とさないようにと努めるのが一般的です。
これらが大切なことは、専門家でなくても想像しやすいと思いますが、これらだけでは十分であるとは言えません。
では、専門家である僕たち理学療法士、もしくは作業療法士は、この荷重制限の時期に何をしておけば良いのでしょうか?
骨折後、荷重制限のある方の症例を通して、歩行するまでにどのようなリハビリをしていくのかを解説します。
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荷重制限や部分荷重の目的とは
最初に、荷重制限や部分荷重の目的を解説しておきます。
荷重制限の目的
まずは、骨への圧縮力を減らし、骨折部の転位、または靭帯損傷後であれば再断裂を防ぐ効果があります。
部分荷重の目的
筋肉は刺激が減ると痩せますが、骨も同様に刺激がないと弱くなっていきます。
部分荷重により、段階的に荷重をしていくことで、骨にある程度の刺激を加え強くしていく効果があります。
もちろん、レントゲン写真で骨の癒合状態、患部の炎症症状などをみながら部分荷重を進めていきます。
脛骨高原骨折により手術をした症例
ここからは、過去に担当した患者さんを例にリハビリの進め方を解説します。
症例の患者さんは、80歳代の方。
元々日常生活はすべて自立しており、自転車にも乗っていた活動的な方でした。
受傷機転ですが、自転車で転倒してしまい、上記を受傷・手術を受けました。
脛骨高原骨折の荷重制限とリハビリの方針
脛骨の骨折は概ね7週間で治癒します。高原骨折は荷重を受ける部分の骨折であり、骨癒合促進のため免荷の指示が出ていました。
症例の荷重制限とリハビリの方針▼
手術後1ヶ月は完全免荷
その後は、1週間毎に
1/3荷重 → 2/3荷重 → 全荷重
との指示でした。
(途中1/2荷重を挟むことが多いのですが)
術後約2週間で僕の努める回復期リハビリ病院に入院したので、完全免荷の時期を2週間過ごすことになりました。
完全免荷時するリハビリ:その①炎症管理と関節可動域の改善
症例は、膝関節周囲の骨折ですが、腫れ、筋の緊張を落とすことで屈曲120° → 135°に改善しました。
この辺りは、炎症がまだ引いていなかったこともあり、自然治癒を考慮して愛護的に進めた結果だとは思います。
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気になったのが、患側に-10°足関節の背屈制限があることです。
これでは歩行訓練を開始してもまともには歩けないのは想像がつくかと思います。
なぜ、足関節に制限があったのかですが、
前院でふくらはぎあたりに熱があったらしく、冷やしていたそうです。
それもずーーっと。
そのせいで、僕の初期評価時には冷凍したみたいに足首がカチコチになっていました。
完全に冷やしすぎです。
炎症の管理を患者さんに任せっきりにするのではなく、看護師やリハビリスタッフが適宜助言し、自己管理へ切り替えていくのが望ましいです。
通常は、冷やす時間は15~20分程度、再度冷やす場合は少なくとも1時間はあけます。
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膝関節にも熱感はなかったので、まずは冷やす必要はないことを伝え、逆に超音波や簡易的に熱したタオルで足首周りを温め、循環の改善に努めました。
※物理療法をする際は、医師に相談することをお忘れなく。
足関節背屈は、1/3荷重が始まるまでになんとか0°まで改善していました。
あとは、歩き出したら循環動態も戻ってくるだろうという見解でした。実際には退院時は10°まで改善していました。
完全免荷時するリハビリ:その②筋力の維持
完全免荷の期間が長く続くと、当然筋肉は痩せて力も落ちてきます。
ただ、結構な割合でやりがちなのが、平行棒内または松葉杖などで健側だけで歩行訓練をすることです。
例えば、外泊をするためであれば、松葉杖は使えたほうがいいのですが、入院中で松葉杖を使えるようにしておくことはそれほど重要ではありません。
(注意:回復期リハビリ病院の場合は、リハビリ時間が多いためリハビリ時間内の歩行でも十分だという意味です。)
まずはベッドから車椅子に一人で乗り移る能力の獲得を目指し、そこがクリアできていれば日常生活レベルで健側の筋力はほぼ維持できます。
健側のみで歩行訓練をするにしても、その意義と目的を明確にすることが大切です。でなければ、弊害も生じてきます。
まず、一つ目の弊害としては、身体中心に健側がくることで姿勢の歪みが生じます。
2つ目の弊害として、高齢者では片足に過度な負荷をかけ過ぎることで、痛みを引き起こす場合も想定しておかないといけません。
完全免荷時にするリハビリ:その③足底から感覚をいれておく
リハビリでは、足底から刺激を加えて圧覚や触覚を落とさないようにしておきます。
痛みに対する基本的な3つのアプローチでも解説していますが、非荷重の期間が長くなると痛み域値が低下するとも言われています。
このことを考えると、足底から感覚を入れておくことが推奨されます。
具体的には、足底で様々な硬さや形のボールを転がし刺激を入れていきます。
引用)江草典政・三谷直子 ペイン・リハビリテーションを生きて 2013.11.p212
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1/3荷重のリハビリ:「歩行感覚」をつかむことに重きをおく!
いよいよ荷重をかけていきます。
例えば、45kgの人の1/3荷重は15kgキロですね。
足の重さはだいたい10kgくらいですので、1/3荷重が始まったからといって、実際にはそれほど荷重をかけられるものではありません。
一度試してみるといいですが、15kgの荷重をかけようと思ったらあっという間に上限を超えてしまいます。
この時期では、体重をどれだけ乗せられるかよりも、歩行感覚の再学習に重きをおきます。
具体的には、足の踵から接地、足底、最後は母趾に荷重が抜けていく感覚を教えていきます。
荷重の流れ |
1/2荷重以降のリハビリ:その①「左右対象性」を取り戻していく!
この時期は左右均等に荷重を乗せることができるので、まずはこれまでの非対称姿勢を修正していきます。
完全免荷を経験した人は、多少なりとも健側に重心が偏っています。
ですので、実際に鏡を見ながら視覚的に修正を図ると効果的です。
次に、慣れれば視覚を用いずに固有感覚を使って左右対象性を認知していきます。
この辺りは運動学習理論を参考に進めていくと良いでしょう。
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また、左右対象姿勢を保ちながら、起立着座訓練で下肢の抗重力伸展活動を促していきます。
1/2荷重以降のリハビリ:その②立位における姿勢反射を促通する
これまで患側をほとんど浮かし、両手に依存した生活をしていたので、両手を解放した立位姿勢を作り左右下肢で支持すること、そして立位における姿勢反射を促通していきます。
具体的には、立位でボール投げなどが良いです。
2/3荷重~全荷重のリハビリ:歩行訓練がスムーズに進んでいくために
2/3荷重が始まれば、平行棒や松葉杖、歩行車などを使って歩行感覚をつかんでいきます。
ご紹介した患者さんの場合は、完全免荷や部分荷重でしていたリハビリが功を奏して、全荷重後には割とスムーズに歩くことができていました。
全荷重2日目には、歩行車自立レベルです。
いきなり全荷重をするのではなく、歩行車や杖などを使い、痛みやふらつきなどを確認しながら歩行訓練を展開していきます。
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まとめ
荷重制限のリハビリでは、何をしたら良いのか正解はないですが、しっかりと目的をもって進めていくことが大切です。
本症例は、膝よりも足関節に硬さがありました。
その状態では歩行すると足尖優位の荷重になり、大腿前面~膝前面に負担をかけることが予想され、早期改善が必要でした。
荷重制限のあるうちから、全荷重になったらどうなるか。ということを想像しながらリハビリするようにしましょう。
また、機能障害ばかりに目を向けるのではなく、退院後の生活もしっかりみておく必要はあります。
患者さんは、元々和式便座を使用していたので、足関節や膝関節の負担と年齢的なことを考慮し、家屋調査の際に洋式便座への改修を提案しました。
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