理学療法士や作業療法士は筋緊張をどのように解釈しているでしょうか?
脳卒中でよくみられる筋緊張異常や肩こりでみられる筋の過緊張など、同じように筋が硬くなりますがそのメカニズムは異なります。
今回は、理学療法士や作業療法士が行う筋緊張の評価方法やメカニズムについて詳しく解説していきます。
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筋緊張とは
安静時においても筋は絶えず一定の緊張状態を保っています。このことを筋緊張といいます。
また、活動することで筋収縮が起こり筋の張力により緊張状態は高まります。
このように健常人でも、筋は状況に応じて絶えず緊張状態を変化させているのです。
まずは筋緊張を大まかに理解する
臨床では、筋緊張の変化を亢進?痙縮?弛緩?低緊張?過緊張?・・・など色んな言い方で表現しています。
何が何かさっぱりですね・・・
まずは、大まかには以下のように覚えておくと良いでしょう。
正常筋緊張の中にも肩こりのように筋に硬さがみられたり、姿勢によって筋緊張が変化します。
これは筋など末梢の変化に伴う筋緊張の変化といえます。
一方、筋緊張が亢進または低下しているものとして、痙縮や弛緩などがありますが、これは脳卒中や脊髄損傷などのように脳や脊髄の異常により起こる筋緊張をいいます。
筋緊張亢進には、痙縮(痙性)、固縮(強剛、硬直)があります。
痙縮(痙性)とは
痙縮とは、筋が急激に伸ばされた(伸張反射)ときに起こる抵抗のことをいいます。
始めは抵抗感が強く、あるところで急に抵抗が弱まる様子から折りたたみナイフ現象ともいいます。
痙縮のメカニズム
痙縮に関係する求心性神経を簡単に表や図にすると以下のようになります。
神経線維 | 受容器 | 機能 |
Ⅰa線維 | 筋紡錘 | 筋の速さに反応 |
Ⅱ群線維 | 筋紡錘 | 筋の長さに反応 |
Ⅰb線維 | 腱紡錘 | 腱の張力を筋へ伝える |
引用画像
折りたたみナイフ現象のメカニズム
まず、筋が伸ばされるとⅠa線維やⅡ群線維に伝達され筋紡錘が興奮します。そしてα運動運動ニューロンに伝わり筋が収縮します。
その後、筋の張力が減弱するとⅠb線維によって腱紡錘が興奮し、α運動ニューロンが抑制されます。つまり、筋緊張が弱まるということです。
なぜ腱紡錘よりも先に筋紡錘が興奮するのか?・・・
腱紡錘よりも筋紡錘は閾値が低い(早く反応する)ため、関節を動かした直後は筋の収縮により抵抗感が増します。
Ⅰb抑制について
Ⅰb抑制というのを臨床でもよくいいますが、筋緊張を抑制したい筋の腱に圧を加えるというもです。
腱を伸張することでⅠb線維が興奮し、α運動ニューロンを抑制します。すると筋緊張が抑制されます。
ですので、脳卒中片麻痺で痙縮が強い人には効果的な治療手段であるといえます。
固縮(強剛、硬直)とは
固縮は関節を動かしたときにカクン、カクンとした抵抗感があり、その様子から歯車様固縮といいます。
または、鉛管を曲げるように終始抵抗を感じることから鉛管様固縮ともいいます。
固縮はパーキンソン病でよくみられる筋緊張の亢進です。
固縮のメカニズム
筋緊張をコントロールしているのがγ運動ニューロンです。
γ運動ニューロンは、網様体脊髄路などの錐体外路によって制御されており、α運動ニューロンを興奮させる働きがあります。
つまり、錐体外路に障害があるとγ運動ニューロンを制御できなくなり、よってα運動ニューロンも興奮し続けることになります。
このことで筋が持続的に収縮を続けます。
筋緊張低下とは?
脳卒中の急性期や小脳疾患、脊髄癆、末梢神経障害などにみられます。
脳卒中急性期には一見弛緩様といって、筋緊張は低下しているけれど深部腱反射は亢進しているといった現象がみられます。
深部腱反射亢進 = 筋緊張亢進ではないのですが、深部腱反射の亢進は皮質脊髄路(錐体路)の障害を示唆します。
また、皮質脊髄路の近くを皮質核路(γ運動ニューロンを抑制している)が通っており、ここが障害を受けていると後に筋緊張も亢進してくることが予想できます。
筋の過緊張(筋スパズム・筋硬結)とは
健常人でもある程度の筋の緊張はありますが、例えば肩こりなどでみられる筋の硬さは正常範囲内の筋の過緊張(高緊張)ということになります。
これは前述した痙直や固縮などの筋緊張亢進とは区別されます。
筋スパズムとは
筋スパズムとは、筋が不随意に収縮している状態であり筋攣縮ともいいます。
筋スパズムは、筋疲労や外傷または炎症などによる痛みに起因していることが多いです。
痛み刺激により、α運動ニューロンやγ運動ニューロンが興奮し、筋は持続的に収縮する結果になります。
筋硬結とは
肩こりのように、筋の一部に硬さがみられることを筋硬結といいます。
筋硬結の原因は諸説ありますが、主には循環不全による酸素とエネルギー不足といわれています。
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筋緊張の評価とその手段
筋緊張は安静時だけではなく姿勢や動作時にも変化するため、①安静時、②姿勢時、③運動時で評価します。
そして、筋緊張を評価する手段としては、簡易的には動かす(被動性・懸垂性検査)、視診、触診の方法を用います。
また、機器で測定することも可能です。(姿勢時筋緊張で説明)
①安静時筋緊張
安静時筋緊張とは、筋がリラックスした状態を指しており、被動性検査と懸垂性検査で評価します。
これらは、痙縮や固縮など中枢性の異常筋緊張を診る際に有効な検査です。
被動性検査
被動性検査とは、各関節を他動的に動かした際の抵抗感を診ています。
代表的な評価尺度として、アシュワースの痙性スケール(Modified Ashworth Scale:MAS)があります。
判定方法は以下の通りです。
アシュワースの痙性スケール(MAS) | |
0 | 筋緊張の増加なし |
1 | 動作時に引っかかるような感じの後に、その感じが消失する。または、最終伸展域でわずかに抵抗感を認める |
1+ | 筋緊張は軽度亢進し、可動域の1/2以下の範囲で引っかかる感じの後にわずかな抵抗感を認める |
2 | 可動範囲全域で筋緊張は亢進するが、他動運動は簡単に可能である |
3 | 筋緊張はさらに亢進し、他動運動は困難である |
4 | 四肢は固く、他動運動は不可能 |
懸垂性検査
筋がリラックスした状態で、上肢または下肢を振り子のように振る検査です。
筋緊張が亢進している場合には関節の動きは小さくなり、低下している場合には動きが大きくなります。
②姿勢時筋緊張
座位や立位などのように、姿勢保持のためには持続的な筋緊張を要します。
姿勢時の筋緊張を診る方法は、視診と触診です。
視診
例えば、座位で体幹が右に側屈していたとすれば、左の腹筋群や背筋群の筋緊張が高まっていることがわかります。
ただし、重心線がどこを通っているかも見ておく必要があります。
下の図のように上部体幹は後方へ、下部体幹や骨盤は前方へ移動している際には互いが調度良く釣り合いが取れており、この場合はほとんど筋緊張を必要としていません。
ただし、筋や靭帯の張力により姿勢を保っているため、それらの組織への負担は増大してしまいます。
触診
実際に筋の硬さを触診してみて緊張状態を確かめるのですが、主観的要素は大きく経験も必要とします。
肩こりなどのように垂直方向への筋の抵抗には筋硬度計を使うとより正確に測定することができます。
③動作時筋緊張
立ち上がりや歩行など、連続した姿勢の変化の際には触診することは難しい場合が多く、動作時は視診が主な評価手段となります。
動作時における筋緊張の亢進は、努力性の要素が大きく関与しています。
例えば、立位では上肢がリラックスしているのに、歩行時に上肢の緊張が高まっているケースもあります。
その場面は遂行する課題の難易度が高いか恐怖心などがあるのがわかります。
筋緊張に影響を及ぼす要因
筋緊張は、前述したメカニズムのように一次性により亢進または弛緩するだけでなく、二次性の要因も大きく影響しています。
筋緊張の変化は、①身体要因、②精神要因、③環境からの影響も受けています。
身体要因
●骨・関節異常
●感覚系(視覚・体性感覚・前庭感覚)の障害
●筋力低下
●姿勢制御系(フィードバック・フィードフォワード)の障害
●痛み
例えば、筋力は十分にあっても感覚障害が重度ならどのように関節を動かして良いのか感知することができず、過度に筋緊張を高めてしまいます。
精神要因
●認知機能
●覚醒・意識・注意
●感情・情緒
集中力が低下していたり恐怖心があると、精神的に緊張することもあり、それが身体の緊張を生むこともあります。
環境要因
●指示面の状況
●生活スタイル
●物を持つなど
不安定な支持面で立位をとると筋緊張は高まります。
また、日頃パソコンばかり使っている人は肩がこるように生活スタイルからも影響を受けます。
参考書籍
「筋緊張に挑む」は、筋緊張の知識を得るにはかなりお勧めの書籍です。
今回の記事はこちらの書籍を参考にギュッとまとめたものです。
僕はこの本を読んで筋緊張についてかなりの理解が深まり、モヤモヤしていた疑問を整理することができました。
まとめ
筋緊張は痙縮のように一次性のものとその他の要因による二次性のものがあり、理学療法士や作業療法士は二次性の要因に対してアプローチしていくことができます。
姿勢や動作時においては二次性の要素も強く、筋緊張を理解しておくことでより質の高いリハビリが展開できるのではないかと思います。
引用画像
松沢正:理学療法評価学p175.2006.10
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