リハビリにおいては筋力低下はよく遭遇する機能障害です。
そのため、どのくらいの筋力を有しているのかを検査することは非常に多いです。
理学療法士や作業療法士が簡易的に用いる評価方法として、徒手筋力検査法(MMT:Manual Muscle testing)があります。
今回は、MMTの目的や判定基準をわかりやすく解説します。
また、評価とは・・・誰がしても同じであり、再現性のあるものでないと信憑性が非常に怪しくなってしまいます。
しかし、臨床においてMMTの評価やその解釈には個人差があるように思います。
MMTの「評価の再現性を高めるための6つのポイント」や臨床で疑問に思う内容にも触れて解説していきます。
※各関節の検査方法については、いろんな教科書でも取り上げられていますので、そちらで確認すると良いかと思います。
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MMTの歴史
過去にポリオ(※)が猛威を振るった経験から、重力と抵抗の概念を取り入れた検査方法として、1912年にハーバード大学医学部整形外科のWrightとLovertによってMMTが考案されました。
その後1946年にDanielsによって改訂が成され、日本の理学療法士や作業療法士の多くはこの検査方法に倣って筋力の評価を行っています。
※ポリオとは、前角細胞への感染により四肢麻痺を呈する病気のことです。
MMTの目的
MMTは、各関節ごとの筋または筋群の筋力を量的に測定することを目的としています。
具体的には・・・
①診断の補助
末梢神経損傷や脊髄損傷の損傷部位を決定する際に用いられます。
このように、ポリオをはじめ神経由来の筋力低下は特に個別の筋力に差がみられるため、各筋の評価が重要になってきます。
②運動機能の判定
前述した神経由来の筋力低下とは違って、例えば骨折などによる筋力低下では個別筋の評価をする必要性はありません。
股関節屈曲や膝関節屈曲といったように、大まかな運動パフォーマンスを評価し、必要性に応じて個別筋の評価を行います。
③治療方法や治療効果の決定
治療内容が適切であったのかを再評価するためにも行います。
④治療の一手段
MMTの手段自体をそのまま筋力増強訓練として用いることもできます。
MMTの判定基準
MMTの判断基準は0~5の6段階により評価します。
5:(正常)Normal
重力と強い抵抗に抗して完全に運動できる
4:(優)Good
重力と中等度の抵抗に抗して完全に運動できる
3:(良)Fair
重力に抗して完全に運動できる
2:(可)Poor
重力を除けば完全に運動できる
1:(不可)Trace
筋のわずかな収縮はみられるが、関節は動かない
0:(ゼロ)Zero
筋の収縮が全く認められない
MMTの再現性を高める6つのポイント
MMTの再現性を高めるための6つのポイントを解説します。
是非、ここのポイントをしっかりと覚えておきましょう。
①安定した肢位
筋力検査は、患者さんの最大筋力を診ることは言うまでもないですね。
患者さん自身の姿勢が不安定である場合には、最大筋力を発揮することが難しくなります。
例えば、
●ベッドが柔らかい。
●下肢の筋力を診ているけど、患者さんは掴るところがなく体幹が不安定になっている。
このような状態では、筋力を発揮することは難しくなります。
なので、硬いベッドで検査したり、患者さんにはベッド端を掴んでもらって身体が安定するようにしておきましょう。
②固定
安定した肢位とも似ていますが、例えば股関節外転の筋力を診ているときに、骨盤がグラグラと動いてしまっては最大筋力を発揮することができなくなります。
検査者は、運動している関節付近をしっかりと固定しておくことが大切です。
③抵抗をかける方向やタイミング
抵抗は、運動方向に対して垂直に加えていくべきです。
どの方向に運動しているのかを確認し、その場所に手を置いて運動とは逆の垂直方向へ抵抗を加えます。
また、筋力はある程度の張力があるときに最大筋力を発揮します。
例えば、肘関節屈曲においては約120°でピークトルクとなり最大筋力を発揮します。
0°付近や最大屈曲位では逆に力は発揮しづらくなります。
④運動範囲
MMTの判断基準には全可動域との記載があります。
患者さんには「どこから、どこまで動かす」というのを事前に伝えておくことが大切です。
⑤代償運動
各関節の検査において、代償運動を注意する旨がどの教科書にも記載されているはずです。
例えば、中殿筋の筋力を診る場合に、股関節屈曲の代償が入ってしまう代償運動が臨床でもよくみられます。
これでは中殿筋はほとんど働かず、大腿筋膜張筋を使って股関節を外転していることになります。
このように、どのような代償運動が起こるのかを知っておかないといけません。
⑥筋の触診
特に判定が0なのか1なのかという際には筋の触診技術が求められます。
また、狙った筋が収縮しているのかを確認する上でも必要になってきます。
MMTでよくプラス(+)、マイナス(-)を使うけど、どういうときに使うの?
ここからは、臨床でも気になるであろう内容を解説していきます。
まずは、プラス(+)、マイナス(-)の記載についてです。
よく3+や2-など、(+)(ー)をつけて判定されることがあります。
最初に言っておきますが、Danielsの考案したMMTでは6段階が原則ですが、例外として3+、2+、2ーは認めています。
それ以外に(+)(ー)を用いるのは望ましくないとしています。
3に+をつける理由
3+とは、重力と軽い抵抗に抗して動かすことができるものをいいます。
日常生活においては、物を持ち上げたり、靴を履いていたり。
機能的に手足を使いこなすことを考えると、重力と軽い抵抗に抗する必要があります。
2+とは
2+には、2つの判定基準があります。
1つ目は、足関節の底屈での2+です。
体重を支えながらも部分的に踵を持ち上げることができるのが2+としています。
もう1つは、水平面での運動で最大の抵抗を加えても動かすことができる場合も2+と判定されます。
重力に抗するか、重力に抗さないかは大きな違いがあります。
この微妙な判断を+を用いることで解消しています。
2-とは
2ーも同じように、1つは足関節底屈で2-が用いられます。
足関節底屈だけ重力に抗する場合は2-としています。
また、水平面への運動で、運動の一部を動かせるものを2-としています。
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足関節底屈はそんなに弱くない!
実習生でよく見られる間違いがありますので、紹介しておきます。
足関節底屈に徒手抵抗を加えて、抗することができれば5と判断している学生をたまに見かけますが、これは大きな間違いです。
足関節底屈筋はかなり強い筋力を有しており、徒手では到底抑えることなどできません。
健常者で試しに測定してみると良いかと思いますが、余裕で抗することができるはずです。
もし、徒手にも負けてしまうようなら足関節底屈筋力はかなり弱いといえます。その場合は2以下です。
kendallでは3や4にも(+)(ー)を用いることもある
臨床において、3や4にも(+)(ー)を用いている理学療法士や作業療法士もいますが、これはkendallの判定方法を用いているのです。
kendallでは、3や4にも(+)(ー)を用いて12段階で判定されています。
kendallの判定方法のように細かく評価する意味としては、「4は4でも以前の4よりは少し力がついているな」といった場合には評価しやすいメリットがあります。
ただし、あくまでも主観的要素は強くなってしまいます。
MMTは、相対評価ではなく絶対評価である!
たまに4+などと判定しているのを見るのですが、kendallの方法に従って判定しているのであれば文句はないでしょう。
しかし、中には左右で比べて判定している人もいるので、注意していただきたいと思います。
左右で比べるとどういうことが起きるのか・・・
例えば、股関節屈曲の筋力検査をした場合に。
「左右とも中等度の抵抗に抗しているなぁ~・・・
でも、なんとなく左の方が強いけど、強い抵抗には抗することができてないんだなぁ~。
それなら、右は4で、左はちょっと強いから4+にしたらいいんだ。」
右 | 左 | |
股関節屈曲 | 4 | 4+ |
でも、しばらくすると、脳梗塞を起こして重度の右片麻痺になってしまった・・・
もう一度筋力検査をしたらどうなりますか?
左は4+のままですかね?
この4+は右と比べてって話だったのですが、右が比べることができないくらい筋力が落ちてしまってますよね。
MMTは左右とも、その他の部位とも比べるものではないということです。
つまり、MMTは絶対評価だということです。
じゃあ、どう記載すれば良かったの?
右 | 左 | ||
股関節屈曲 | 4 | 4 | (右<左) |
このように記載するか、再評価の際に筋力が向上または低下したなどと書き加えておくと良いです。
参考書籍
MMTは誰がしても再現性があるように、共通の認識をもって評価しましょう。
もし、この記事を読んで「お前の主観多くないかい?」と思った人がいたとするなら、是非とも教科書を読んでいただきたいと思います。
ケンダルの評価方法も知っておいたほうが良いでしょう。
まとめ
MMTは実習生の間でも比較的理解しやすい検査かとは思いますが、判定方法が各人でバラバラだという印象を受けたのでこの記事を書いてみることにしました。
では筋力検査はこれで十分なのかというとそうでもないのが、今の現状です。
そこは、やはり徒手に頼って評価している部分があるからです。
評価をより正確にしようとするなら数値化するのが望ましいと思います。
最近では、アニマケア株式会社から筋力を測定する機器も登場していますので、今後は機械による測定が主流になってくるかもしれませんね。
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