めまいを含む前庭機能のリハビリテーションについて、4つのアプローチ方法を中心に解説します。
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前庭機能のリハビリテーション。目的と注意点
前庭機能のリハビリは、1940年代にCawthorneとCookseyにより最初に報告され、そこから研究が進み普及してきました。
目的
前庭機能の改善や姿勢不安定性を減少されること、さらに活動レベルの向上を図り、最終的には社会的活動の参加に戻ることを目的としています。
運動療法の注意点
●患者さんには、めまいを誘発する恐れがあることを説明しておく
●転倒には十分配慮する
●苦痛を与える訓練も多いため、患者さんのペースに合わせることも必要
前庭代償の神経メカニズム
以下の2つの機能により、前庭機能の回復を図ることができます。
前庭神経核間の交連線維抑制系
前庭神経核間の(左右を繋げる)交連線維により、左右不均等な活動性を調整します。
前庭小脳―前庭神経核抑制系
前庭神経核は小脳から抑制性のコントロールを受けています。
これら2つのメカニズムを簡単に説明すると・・・
めまい、ふらつきを軽減させるには、左右の前庭機能を均等に保つこと、前庭機能は小脳で代償できることを意味しています。
前庭眼反射について、マウスを用いた研究報告(永雄総一ら、2008年)
マウスを用いて眼球の追従運動を1時間行い、それを毎日繰り返すことで眼振が軽減していくと報告されています。
この研究では、短期の運動記憶は小脳皮質に保持され(しかし、24時間後には元に戻る)、長期の運動記憶は前庭神経核に保持されると示唆する結果が得られました。
つまり、前庭機能の回復には小脳の機能が鍵を握っています。
前庭機能のリハビリテーション。4つの介入方法
前庭機能のリハビリには、①前庭適応、②慣れ、③他の感覚で代償、④協調性トレーニングがあります。
①前庭適応
目的
眼球の網膜上のズレを誘発し、小脳や前庭神経核による中枢性代償を促通していきます。
これは、前庭眼反射の機能向上を図るアプローチになります。
方法
眼球運動(上下、左右)、目標物を注視し頭部運動(上下・左右)など様々な動きや速度で行います。
1日に1~2分を3セットすることが推奨されています。
上で説明したマウスの実験を参考にするなら24時間以内に練習を再開するのが良いでしょう。
②慣れ
目的
現在の感覚(頭部が動く感覚と視覚)が過去に経験した感覚と比較し、一致していればめまいは感じません。
つまり、現在の異常感覚を過去の異常感覚に置き換えて、めまいを減少させます。
4~6週でめまいが減少することが多いです。
方法
めまいの起こる動作を繰り返し行うことで、めまいを減少させます。つまり慣れるということです。
例えば、フィギアスケートの選手はあれだけクルクル回っても目が回らないのは、普段の練習で慣れてしまっているからです。
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③他の感覚で代償
目的
視覚、体性感覚など前庭感覚以外の感覚で代償します。
方法
予め、頭部の動きが予測されている場合、眼球を先に目標物に動かし、その次に頭部を目標物へ動かします
最初は座位から始め、立位、歩行でも行います。
頸眼反射を促通
上位頸椎(第2・3)には固有受容器が多く存在します。
例えば、回転式の椅子に座り、目標物を注視し、椅子ごと体幹を回転させることで頸眼反射を誘発します。
④協調性トレーニング
目的
視覚・体性感覚・前庭感覚の協調性を高めます。
方法
立位でボール投げをしたり、眼球・頭部の上下・左右への運動を行うことで、視覚・体性感覚・前庭感覚の協調性にトレーニングになります。
また、柔らかいマットの上に立つと体性感覚の入力が減少します。
さらに閉眼し視覚入力を無くせば、前庭感覚中心の姿勢戦略へと変化させることができます。
このように、促通したい機能があれば、他の機能を抑制することで目的を果たすことができます。
おすすめ書籍
リハビリで行うバランス訓練は、総合的かつ協調的なトレーニングが中心であり、どの機能を促通しているのか不透明なことがあります。
前庭機能のリハビリ方法を知っていれば、バランストレーニングといえど目的を持った具体的なアプローチが可能になります。
前庭機能のリハビリについては、この一冊で十分なほどかなりおすすめの書籍です。
まとめ
前庭機能のリハビリテーションについて、4つのアプローチ方法をお伝えしました。
臨床では、めまいを訴える患者さんが意外と多く、突発的にめまいを訴えることもあります。
また、めまいを訴える患者さんの多くは、歩行時のふらつきも訴えます。
その際、知識がなければ「めまいが治るまで安静にしておきましょう」と言ってしまいがちです。
ですが、めまいは安静にすればするほど長引くことがあり、活動性・社会的参加を阻害する可能性もあります。
正しい知識と判断ができれば、特に前庭性の末梢障害は比較的速やかに回復するのが特徴的です。
前庭機能はバランス能力に欠かせない重要な機能であり、理学療法士でも十分アプローチが可能です。