僕は理学療法士なんですけど、注意障害のことは学校で習った記憶がないんですよね。
絶対習ってるんでしょうけど、僕自身があまり重要視してなかっただけですね。たぶん・・・
実際、実習生や1年目の人に「注意障害について知ってることを教えてくれない?」と言うと、ほとんどまともに答えられないです。
1年目の僕もそんな感じでした。
今でこそ高次脳機能障害のことも、少しは説明できるようになったかなという感じですが、1年目のときは全然理解していなかった気がします。
理学療法士として臨床で働き出したら、注意障害を含む高次脳機能障害の知識は必須です。
僕たちが日常生活を送る上で、高次脳機能は絶対欠かせません。
注意障害があると日常生活における安全性が低下する恐れもあります。
今回は、注意障害の基礎的な説明と転倒との関係性について解説します。
是非参考にしてください。
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注意とは
日常生活でも「注意」という言葉はよく使われていると思います。
「この道は滑りやすいから、注意して歩きなさいよ」「人が急に飛び出してくるかもしれないから、注意しよう」など普通に使いますよね。
ほとんどの人が、注意とは何かを大まかには知っています。
注意には、大きく分けて2つの側面がある
それは、選択性と強度です。
つまり、注意とはある事象に焦点をあて、その強度を変化させることをいいます。
また、能動的な行動が伴うと、焦点をあてていた事象が変化したり、同時に注意を向けることができるようになります。
意識とは(注意の基盤になるもの)
注意障害を語る上で、欠かせないのが意識です。
意識とは、何かに反応している状態をいいます。
意識には3つの階層があります。
低次から高次の順で、
①覚醒、②アウェアネス、②自己意識
となります。
①覚醒
覚醒は、刺激に反応するための準備状態のことをいいます。
そのため、覚醒は最も低次な機能といえます。
例えるなら、半分夢の中、もしくは寝起きの状態といえばわかりやすいでしょうか。
②アウェアネス
アウェアネスとは、英語で「意識、気づき」という意味があります。
特定の事象に向かう意識を指し、外部刺激に反応できる状態をいいます。
後述する注意障害の分類の中でも、最も低次な選択性注意も含んでいます。
③自己意識
自己に向かう意識のことをいいます。
つまり、外部刺激に対してどういう行動をとるべきなのかがわかる状態です。
これらの階層を踏まえて、注意障害を評価してきます。
寝ぼけている(覚醒が低い)人に、仕事の効率化を求める(注意して仕事をする)のは少々無理がありますよね。
注意障害の分類
注意障害は、以下の4つを理解しておくと良いでしょう。
選択性 | 多くの刺激の中から特定のものに意識を向けること |
持続性 | 事象に対して、意識を持続させること |
転動性 | 今反応しているものから、別の事象に意識を切り替えること |
分配性 | 複数の課題を均等または重みづけをして、同時意識を向けること |
脳機能から見えてくる注意障害
意識を司る神経経路には、上行性網様体賦活系と脳幹網様体賦活系があります。
上行性網様体賦活系
網様体から視床へ到る上行性の経路であり、さらに大脳へ投射し脳の広い範囲で覚醒や睡眠が調節されます。
脳幹網様体賦活系
前頭葉から視床や脳幹への下行性の経路であり、身体の運動を調節しています。
分類別注意障害とその病巣
注意障害は、脳全体の機能障害により症状がみられるといわれています。
脳のどの領域がダメージを受ければ、どんな症状が出るかは一概にいえないところがあります。
ただ、ある程度脳の機能を理解していれば、一致するところもあります。
選択性注意障害は、視床や頭頂葉など主に感覚系に関わる部位の障害でみられます。つまり、意識に関わる部位が関与しています。
持続性注意障害は、脳幹網様体や辺縁系の障害でみられます。注意を持続するには覚醒や動機づけが深く関与しています。
転動性・分配性注意障害は、前頭前野の障害でみられます。前頭前野はその場に応じた行動や思考の制御、作業記憶などに関与していることから症状とも一致するところがあります。
また、注意障害は右半球の脳障害でより多くみられます。
注意障害の評価
注意障害の評価バッテリーはいくつもあり、例えばTMT(Trail Making Test)は臨床でもよく使う評価の一つです。
しかし、机上のテストだけを頼りに注意障害の有る無しを判断するのは不可能です。
なぜなら、机上で行われている課題と日常生活で要求される課題では合致しないことが多いからです。
日常生活においては、選択するべき事象やその量、さらには求められる反応速度も異なります。
また、注意が受動的か能動的かによっても異なります。
机上課題では能動的な注意が要求されます。
一方、日常生活では慣れていないことや新しい刺激に対しては能動的に、慣れて自動化したものは受動的に注意を向けます。
注意障害の評価で大事なことは、机上課題はあくまでヒントの一つと捉えることです。
むやみやたらに机上評価に頼り、患者さんを疲弊させないことです。
数ある評価の中でも、古くから行われている臨床観察が有効であるとされています。
Ponsfordの注意行動評価スケールやBAADなどは、日常生活から診る注意障害の行動評価尺度として活用できます。
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注意障害と転倒の関係性
臨床で働く理学・作業療法士の中で、注意障害と転倒は無関係と考える人はおそらくいないでしょう。
病院で入院している患者さんの中で、転倒しやすい人はほぼ決まっています。
①自立度が高い人、②ベッド周辺動作が自立しているは転倒しやすい傾向にあります。
参考記事)転倒しやすい場所・時間・原因
実際、車いすからベッドへ移る際には、多くの注意が求められます。
車いすとベッド間の移乗では、
●車いすの適切な設置位置
●フットレストの上げ下ろし
●ブレーキのロック
●足の接地位置の確認 など・・・
これらを自己で注意しなければ転倒リスクに繋がってしまいます。
脳血管障害を始め、高齢者ではこのようないくつもの課題に注意を向けることが難しい場合が多いです。
まとめ
注意障害について、基礎的なところと分類や評価、転倒との関係性も解説しました。
理学療法士は、注意障害をはじめ高次脳機能障害に対して苦手意識を持っている人は多いと思います。
実際、僕がそうでしたので。
しかし、脳血管障害や高齢の患者さんを診る上で、高次脳機能障害の知識は欠かせません。
理解が深まると、違った視点でも診れるようになります。
また、作業療法士や言語聴覚士との情報交換でも知識をフル活用できます。
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