患者さんと関わっている理学・作業療法士は、どうすればリハビリが上手く進むのか日々悩んでいるかと思います。
リハビリの主役は患者さんであり、患者さんの気持ちが乗らないことにはリハビリが上手く進みません。
いかにして、患者さんの気持ちを最大限に乗せるかは療法士の腕の見せどころということにもなります。
普段誰とでも気軽に会話を楽しむことのできる療法士の人でも、いざ障害を持った患者さんが対象になると、どう受け答えして良いのかわからなくなることも多々あります。
今回は、どうすれば患者さんと良好な関係を築くことができるのか、心理学的なテクニックも交えて解説します。
スポンサーリンク
良好な関係とは何か?
僕らは理学または作業療法士であるため、その専門家の立場として、患者さんと関わっていくことが求められます。
ですので、この場合の良好な関係性とは、友達や恋人、家族のような関係性ということではありません。
もし、仮にですよ。患者さんが療法士を恋人のような存在と認識してしまったら、女性療法士などではストーカーを受けるかもしれませんので、気をつけていただければと思います。
あくまでも療法士として良好な関係性を築くことを指しています。
言葉は不適切かもしれませんが、療法士の言う通りにリハビリをやってくれる関係性のことです。
こんな言い方だと患者さんに怒られるかもしれないので、補足しておきます。
療法士の言う通りにリハビリしてもらえれば、必ず最も適した状態できる関係性。ということです。
療法士はそれくらいの責任感と使命感をもって、患者さんと関わっていかなければいけません。
良好な関係性が築ければ、療法士の指示するリハビリ内容を患者さんは理屈抜きにやってくれることが多いです。
だからこそ、意味のある良質なリハビリを提供していかなければなりません。
初回のリハビリで好印象を与えること
療法士のあなたは、初回のリハビリで何を意識していますか?
まさか、いきなり「それでは関節の角度を測っていきますね!」と言ってないですよね?
そんなこと言われた患者さんは、「この人に身体を預けても大丈夫なのだろうか?」とますます不安になります。
まずは、患者さんに好印象を与えることに焦点を当てましょう。
好印象を与えたほうが良いのは当たり前のことなんですが、好印象はどうすれば与えられるのでしょうか?
実は、患者さんの話をしっかりと聴くことで第一印象はかなり良くになります。
ほんと聴くだけで良いんです。ここでの余計な助言は一切不要です。
これは「無言のテクニック」と言われるもので、患者さんの不安や不満を全部吐き出させることで、解決策を自ら見つけてもらうという心理テクニックでもあります。
また、このテクニックの良いのは、そのような心地良い状況下を作り出した療法士に信頼感を抱くところにあります。
さらに追加するとすれば、適度な相槌とオウム返しも効果を発揮します。
患者さん「骨折したときは、どうしようもないくらい痛かったんですよ。」
療法士「痛かったんですか〜」
このようにオウム返しをすることで、しっかり話を聴いていますよというのが伝わります。また、会話を円滑にする効果もあります。
そういった会話を挟みながら、初回評価を続けていきます。
ネガティブな発言が一向に止まない患者さんにはどう関われば良いのか
患者さん「こんな身体になってしまって、何もできなくなった」
障害をもってしまうと、このように嘆く患者さんはとても多いです。
この場合、障害受容でいうところの混乱期にあたります。
障害受容について参考記事)
実際は確かにそのほうが患者さんとの関係性は良くなります。
問題なのはここからです。
その患者さんの発言の本質が何なのか・・・?というところです。
混乱期にあたる場合には、先ほどの「無言のテクニック」のように傾聴することで、解決策を患者さん自ら見出し、次の段階の努力期に移行できるようになります。
しかし、いつまでもネガティブな発言がある場合、療法士が患者さんに何かしらの報酬を与えている可能性もあります。
ネガティブ発言後、療法士の悲しそうな顔などが実は報酬になっている可能性があるのです。
それを見た患者さんは「あ~同情されてる。かまってくれている。」と無意識に感じてしまっているとすれば、そういった表情はネガティブ発言を助長させます。
しかも、行動が感情を作り出すかのごとく、ネガティブ発言をしていると、さらにネガティブな気持ちになるので気をつけたいところです。
この場合には、患者さんの期待した表情とは逆の表情を作って見せるのです。
患者さん「もう何もできない」
療法士「(割と明るめの声で)あ〜そうなんですか。」
とちょっと拍子抜けさせるくらいのほうが良いです。
これは、反同調行動と言われるもので、相手にその言動はこの場に相応しくないというのを示しています。
難しければ、無表情を貫くのも良いでしょう。それが無言のメッセージになり効果的です。
逆に、望ましい言動があった場合は、同調行動で対応します。
患者さん「上手く歩けた!」
療法士「(快活な表情で)そうですね!私もそう思います!」
このように、反同調行動と同調行動を巧みに入れ込んでいくことで、患者さんを望ましい行動へと導くことができます。
共感が良好な関係性を生む
障害を負った患者さんは、身体だけでなく心も傷ついています。
患者さんは他の健康な人と別離した感覚に陥り、不安になっている場合もあります。
その心を少しでも軽くしてあげるのもまた療法士の役目です。
療法士の人で、自分自身が怪我をしてこの道を志した人多いんじゃないでしょうか?
他には、家族が病気をしてリハビリのお世話になったなどでも良いでしょう。
そういったエピソードを患者さんにも話して見てください。
これは類似性の原理というもので、人は似た状況下にある人に心を開く傾向にあります。また、安心感をも抱きます。
僕は、交通事故で上腕骨を骨折して手術をしたことがあるですが、今でも痛々しい傷跡が残っています。
そのときのエピソードを話すと、患者さんから逆に同情されて、お互い慰め合うみたいな状況にもなります。
テクニック、テクニックと言ってますが、僕自身腕が動かしにくくなり、リハビリを経験しているので、障害をもった人の気持ちがよくわかるんです。
今どんな気持ちなのか、何を言ってほしいのか。
そういう経験がある療法士は、患者さんと良好な関係性を築きやすいと思います。
怪我や事故の経験もなく、経験の浅い療法士は何を話して良いのかわからなくなるかもしれませんね。
それでも別に構いません。
その場合は、何も言わずただただ話を聴くだけで良いんです。
そうやって、いろんな患者さんの辛かったエピソードを聴くことで、その気持ちがだんだんわかるようになってきます。
それもまた、療法士のエピソードとして、経験値として蓄積されていきます。
スポンサーリンク
患者さんの無意識を療法士は意識すること
人間の行動のほとんどは無意識です。
よくメタ認知と言われ、自分のことを意識しましょう。と言われたりもしますが、自分の行動だけを意識してもあまり意味はありません。
※メタ認知とは、自分の行動を客観的に見ること
相手の無意識に焦点を当て、その人が無意識的に心地の良いことは何か、それを療法士が意識することのほうがよほど重要です。
僕自身患者さんとのリハビリでは、その人が何にこだわりを持ち、そして何を求めているのかを常に意識しながら関わっています。
患者さんの無意識の行動を療法士が意識して、先手で行動する。
これができれば、患者さんにとって居心地の良い療法士になるはずです。
まとめ
家族は家族として、友達は友達として、そして療法士は療法士として患者さんと良好な関係性を築くことが大切です。
心理学的テクニックの話でしたので、ちょっと計画的な関わり方のように思うかもしれませんね。
ですが、患者さんが心地の良い気持ちになってもらうことが優先されますので、多少の演技でも良いと思います。
どんな状況下でも、患者さんの心身をより良い状態に導くことができる。
それがプロなのですから。