理学療法士の方々は、運動学習というのは聞いたことはあるかと思います。
運動学習とは、簡単にいえば動作を一つの技能として習得していく過程のことをいいます。
リハビリにおいても、運動学習は非常に重要であり、例えばいくら筋トレをしても動作が上手くならないのは運動学習を考慮していないからです。
少し考えてみればわかると思いますが、重たいダンベルをいくら持ち上げて筋肉隆々にしたところで、テニスやサッカーが上手くなる訳がないのです。
テニスやサッカーが上手くなりたければ、求めている動作に近い練習をして、動作を学習していく必要があります。
それと同じように、立ち上がりや歩行が上手くなりたければ、立ち上がりや歩行練習をしていかないと上手くはなりません。
ただし、闇雲に動作練習を繰り返してばかりで動作が上手くなるのかというと少し違ってきます。
間違った動作やあまりにも難しすぎる動作練習は、むしろパフォーマンスを下げる場合もあります。
そうならないためにも、運動学習の理論とメカニズムを学び、最短かつ効率的な方法を患者さんに提供してことが大切です。
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運動学習の定義
運動学習とは、「知覚を手がかりとして、運動を目的に合うようにコントロールする運動技能が向上していく過程である」と定義されています。
運動学習は、練習や経験に基づいて形成されるものであり、発達や成熟などによる行動の変化は除外されます。
「感覚」「知覚」「認知」言葉の整理
運動学習は、知覚ー運動学習と呼ばれているように、学習の過程には必ず知覚の変化が含まれます。
正しい運動を学習していくためにも、まずは「感覚」「知覚」「認知」の言葉の整理をしておくと理解が深まります。
感覚
感覚とは、外界からの刺激に感覚受容器が反応した状態のことをいいます。
感覚とは、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚などの5感のことを指しています。
知覚
知覚とは、過去の経験に基づいて、得られた感覚情報に意味づけをする過程をいいます。
意味づけとは、物の形や質感などを判別し、過去のものとして再構築していくことをいいます。
認知
認知とは、知覚されたものを統合して、どのようなものであるかを判別することをいいます。
例えば、野球ボールを見て触れる(視覚・触覚)と、過去に見たことのある色や形、硬さから(知覚する)、それは野球ボールである(認知)ことがわかります。
運動学習とは、知覚する過程のことをいう
運動学習においては、患者さん自身が自己の誤った運動パターンや姿勢の変化に気づき、望ましい運動パターンを構築していくことを目指します。
つまり、知覚を通して認知してもらうのです。
理学療法士が行う治療介入は、感覚情報のインプットであり、患者さんにとってはそれが知覚することの体験となります。
理学療法士の関わりによって、患者さん自身が身体状況を気づく環境となるのです。
理学療法士が注意したいことは、患者さんの運動学習を促進していくにあたって、患者さんの感性に響く感覚情報を入れていかないと全く意味を成さないということです。
それだけでなく、正しい感覚を入れていかないと、誤った知覚を生み、誤用動作として運動学習する結果となってしまいます。
スキーマ理論って何?理学療法場面に当てはめるとわかりやすい!
運動学習では、よくスキーマ理論がでてきますので、簡単に解説しておきます。
スキーマとは
スキーマとは、簡単に言えば知覚に関する概念のことをいいます。
どういうことかというと、例えば「犬」を見かけたとしましょう。
僕たちは、「犬」というスキーマ(概念)を持っていますので、見かけた犬がチワワであろうが、マルチーズであろうが、それを「犬」と認知することができます。
しかも、初めて見る「犬」であっても、それが猫でも馬でもなく、「犬」であることが認知できるのです。
このスキーマ理論を歩行(運動)にあてはめてみる!
理学療法士は、患者さんに様々な歩行様式の訓練をするかと思います。
このスキーマ理論を意識してみると、もし歩行のスキーマ(概念)が構築されれば、たとえ歩行速度や床の形状が変化しても、最適と思われる筋出力で運動を行うことができるようになるということです。
つまり、スキーマは「一般化された運動プログラム」であるといえます。
転移とはどういうこと?
上記のように、たとえ多少異なる事象であっても先行経験に基づいて、歩行速度や筋出力を変化することができるのがスキーマ理論です。
また、このように行動が変容することを転移といいます。
転移は後の運動学習にも影響し、似たような練習を繰り返し行えば、基準となる歩行スキルは上達します。さらに様々な応用歩行を体験するほど歩行スキルが上達していきます。
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運動学習のメカニズム。小脳による長期抑圧とは?
運動学習が生じるとき、神経シナプスの新規結合と強化が起こります。神経伝達の回路網ができると学習された運動スキルはスキーマとして蓄積されるようになります。
このように、反復刺激によってシナプスの伝導効率が上昇することを長期増強といいます。
逆に、シナプスの伝導効率が減少することを長期抑圧といい、長期増強を抑制する働きをもっています。
小脳では、運動のエラーを検出しており、望ましくない動きを検出すると、そのシナプスを抑制する長期抑圧が起こります。
運動学習においては、長期増強よりも長期抑圧のほうが強く働きます。
つまり、余計な動きを抑制し、効率良く動くように調節してくれるのです。
教師あり学習、教師なし学習、強化学習とは
運動は、大きく3つの種類によって学習が成されます。
教師あり学習
教師あり学習とは、その名の通り教えとなる感覚情報の入力が大事であり、まずは正しい動きが何なのかを与えることが大切です。その正しい動きと照合して、無駄な動きが修正されていきます。
これは、上で解説した小脳で行われる運動学習のことを指しています。
教師なし学習
教師なし学習とは、手本となるものがない運動の場合に成される学習のことです。
出力されるべき運動があらかじめ決まっていない中で、これまでの経験から多量のデータをもとに、共通の特徴を見つけ運動が行われる過程をいいます。
これは主に大脳皮質レベルで対応する運動学習と考えられています。
強化学習
強化学習とは、何らかの報酬を得るとその運動が強化されることをいいます。
この学習過程では、教師あり学習のような目標とする運動パターンがあるわけではなく、思考錯誤を繰り返してさまざまな出力を試した結果、正しい結果を得ると強化されるものです。
これは、他者からの励ましや、自己で上手くいったかどうかなどの基準で強化がされていきます。
強化学習は大脳基底核が関与しており、中脳から出るドーパニン作動性ニューロンが線条体や辺縁系、前頭葉に働きかけます。
ドーパミンは学習系に関与しており、ドーパミンが不足することでパーキンソン病のような症状がみられるようにもなります。
まとめ
運動学習にはさまざまな理論があり、難しく感じるところではあります。
今回は、僕なりに運動学習について解釈して説明しました。
次はこの運動学習の理論を、どのように臨床で活かしていくのかが大事になってきます。
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