前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)の損傷は、バスケやサッカー、ラグビーなど接触プレーの多いスポーツで高頻度にみられるスポーツ外傷の一つです。
特に男性に比べて女性のほうが発生率が2~9倍多くみられます。
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前十字靭帯とは
構造
大腿骨外側顆内壁から脛骨顆間中央に付着します。前・下・内方に斜めに走行し、長さ平均3.8cm、中央部の幅平均1.1cmの帯状の靭帯です。
※前外側から見た図
屈曲位で緊張する前内側線維束と伸展位で緊張する後外側線維束に分かれています。
役割
大腿骨に対して、脛骨の前方移動、内旋、膝関節の外反、過伸展を制動しています。
膝関節の屈曲・伸展時には、すべり運動を誘導していると考えられています。
受傷機転
タックルなど膝に直接外力が加わる接触型と、ジャンプの着地や急な方向転換などで受傷する非接触型があります。
バスケでは接触型の損傷が多く、約70%を占めています。
受傷肢位は膝関節浅い屈曲位で外反が加わることが問題視されています。
わかりやすくいうと、膝が軽く曲がったままで急激に内側に膝が動くと受傷しやすいです。
前十字靭帯損傷時に用いられる簡易テスト
前方引き出しテスト
膝関節90°屈曲位、脛骨近位を両手で持ち、前方に引き出すテストです。ハムストリングスが収縮していると誘発しにくいので弛緩していることを確認します。
また、後十字靭帯が損傷している場合は脛骨がすでに後方に落ち込んでいる(posterior sagging)場合がありますので、間違えないようにしましょう。
ラックマンテスト
膝関節20~30°屈曲位、大腿骨と脛骨を持ち、脛骨を前方へ引き出します。
こちらの2つは、脛骨前方への引き出しを誘発しています。
もし、断裂していれば、脛骨が過度に前方へ移動するのを感じます。
pivot shift test
膝関節軽度屈曲位、脛骨内旋と外反を加えます。この状態で脛骨は前方へ亜脱臼した状態になります。
そこから、膝を屈曲させていく30°付近で亜脱臼していた脛骨が整復されるのを触知します。
Nテスト
膝関節60°屈曲位、下腿内旋位と膝関節外反位の状態にします。そこから徐々に膝関節を伸展させていきます。
もし、断裂していれば脛骨外側部分が前方へ亜脱臼するのを感じます。
保存的治療か手術どちらが選択されるの?
損傷の程度によって、部分損傷と完全損傷に分けられます。
部分損傷
部分損傷とは、不全損傷のことで関節鏡検査で一部の連続性が保たれているものをいいます。
部分損傷でも、不安定感が軽度の場合は保存的治療でも予後は良いとされています。
ただし、部分損傷でも不安定感が残存している場合は、その後42%が完全損傷に移行したと報告されています。
受傷後に不安定感がなくても、その後不安定感を訴えることの多い時期は9週~15か月と報告されています。この時期に不安定感が出現してくるようなら要注意です。
完全損傷
完全損傷とは、その名の通り完全に断裂しているものをいいます。つまり、線維の連続性が保たれていない状態を指します。
完全損傷を放置すると、その後明らかな外傷がなくても半月板損傷や関節軟骨損傷を来す可能性が高いとされています。
放置した50%の人は35年後には人工関節の手術をしていると報告されています。ただし、前十字靭帯断裂と人工関節置換術の因果関係は科学的根拠に乏しく、これだけでは不十分であります。
高齢者でもスポーツをするなど活動性の高い人では、完全損傷の場合は手術をするほうが受傷前の競技レベルに復帰できるとされいます。
前十字靭帯の再建術
現在、主流な方法は2通りあります。
図のように膝蓋腱、半腱様筋や薄筋の腱を採取し、靭帯の代わりとして再建します。
骨付き膝蓋腱
引用)
強度:2900±260N 断面積:50.5±2.8mm2
メリット:強度が強い。
デメリット:術後に膝前面の痛みや膝伸筋筋力の回復が遅れる場合がある。
半腱様筋および薄筋腱
引用)
強度:1216±50N(半腱様筋)・838N(薄筋) 断面積:14.0±0.5mm2
メリット:膝前面痛が少ない。
デメリット:膝蓋腱の移植よりは強度が劣る。膝関節屈曲筋力が低下する。(特に深屈曲位)
2000年頃から前内側・後外側の走行を考慮し、二重束再建術が行われるようになっています。
ただし、一重束再建術よりも二重束再建術のほうが優れているという一致した見解はないようです。
ところで、なんで前十字靭帯損傷のことを書いたのか?
先日、前十字靭帯を損傷したという方から「どんなリハビリをしたらよいか?」という質問を受けましたので、まとめてみました。
実は、僕自身もバスケをしていて、前十字靭帯を損傷し手術をした既往があります。
ですので、怪我をした辛さやスポーツができないもどかしさがものすごく理解できます。
離れていてもこういった質問を受け、応えることができるのが情報発信の良いところであり、ブログの良いところだと思います。
今回はそのニーズに応えるために書きました。
参考になれば幸いです。
引用・参考文献
引用画像)三条整形外科スポーツクリニック
前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン 2012 改訂第2版
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