病院に勤めていると、脳卒中を発症し、重度の片麻痺を呈した患者さんを担当する機会が多くあります。
その中で、麻痺側上下肢を動かさずに寝返りするのをよくみます。
一見すると、麻痺側上下肢を動かさい原因は「半側身体失認」と判断されやすいのですが、もう少し原因を整理できればアプローチの方法が明確になってくるのではないかと思います。
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まずは、原因となりそうな機能障害を挙げてみる
「麻痺側上下肢を動かさずに寝返りする」
この原因になりそうな機能障害を挙げてみましょう。
・上下肢重度運動麻痺
・半側身体失認
・感覚障害
・意識障害(覚醒低下)
・注意障害
そんなにたくさん出てきませんでしたが、原因となり得る機能障害は、ざっとこれくらいでしょうか。
まず、麻痺側上下肢を動かさないことは、イコールで半側身体失認などと短絡的に判断しないことです。これでは現象だけをみて、機能障害を無理やり当てはめているだけになります。
最初にすることは仮説を立てることです。
上記のように考えられる機能障害を挙げ、それを一つひとつ検査バッテリーを用いて本当にその機能障害があるのかを評価していきます。
寝返り動作は無意識であることを理解しておく
寝返りに限らず、起立や歩行などの基本動作はほぼ無意識です。
つまり、自動的に運動しているにすぎないのです。いちいち各関節に注意を払い動作をしている人はいません。
意識を使う場面は、例えば段差を跨ぐなどイレギュラーな状況下においてのみです。
ですが、その場合においても、身体に意識が向いているのではなく、環境(例では段差)に意識が向けているのです。
話が逸れましたが、まずは寝返り動作は無意識だということを知っておいてください。
起き上がるのに、右手を反対側にもってきて・・・など考えたりはしていません。
僕らが睡眠中に、何度も寝返りをしていることからも、その動作自体が無意識であることを証明しています。
重度の運動麻痺がある時点で、麻痺側上下肢に意識を向ける必要性がでてくる
重度の運動麻痺があり、そもそも手足が動かなければ非麻痺側で麻痺側の上下肢を支えるなどして代償する必要性がでてきます。
つまり、重度の運動麻痺がある時点で意識的に動作を行うことが求められるようになります。
麻痺側上下肢に意識を向けられない原因には、上記でも仮説を立てた身体失認や感覚障害、意識障害(覚醒低下)、注意障害、認知障害などが挙げられます。
重度の運動麻痺は今後回復するのか、予後予測をする
麻痺側上下肢さえ動けば、たとえ半側身体失認や注意障害、認知障害があったとしても、寝返るときに麻痺側上下肢を忘れ去ることはありません。
重度運動麻痺が、今後どの程度改善する見込みがあるのかを予後予測できれば、集中的に時間をかけて麻痺側上下肢を促通していくべきなのかが判断できます。
二木の予後予測では、
上下肢とも、発症後2週以内にstage4以上なら年齢を問わず6ヶ月以内にほとんどがstage6まで回復、
発症時stage3の場合、stage6まで回復するのは半数
といわれています。
特に、脳卒中の発症直後は、麻痺側上下肢がほとんど動かない場合があります。
運動麻痺の予後予測をして、今後麻痺側上下肢が無意識に動くようになるのかを判断します。
麻痺側を動かさないのは、感覚の問題?認知の問題?
感覚障害の有無を確認する
そもそも末梢からの感覚情報がなければ、脳でその情報を認知するなどあり得ません。
もし、重度の感覚障害があれば、失認を原因に挙げそこをアプローチの対象にする前に、まずは感覚を感知できる身体を目指すべきです。
感覚障害がない、もしくは軽度鈍麻で麻痺側上下肢を動かさない場合は、普通なら手足の位置情報でそのことに気づくはずです。
しかし、感覚を感知できる身体であるのに、手足を忘れてしまうのは、末梢からの感覚情報を脳で認知できていないということになります。
つまり、失認の影響であることがここで判断できます。
参考記事)
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どの機能で代償することができるのか
脳卒中急性期の場合は、身体のボディイメージが崩れることで一時的に手足を置き去りにすることがよくみられます。
回復期、維持期と経過していくにつれて、ボディイメージが修正されてきますので、たとえ失認があったとしても、非麻痺側で代償することを学習していきます。
しかし、代償手段を学習していくためには、麻痺側上下肢に注意を向けることと、失敗から学ぶための記憶力が必要になります。
つまり、注意や認知機能で代償しているのです。
参考記事)
回復期や維持期においても、いつまでも手足を置き去りにしている場合には、注意障害や認知障害の影響が強いと考えられます。
つまり、麻痺側上下肢に注意を払い、代償手段を用いて寝返りをしないといけない場面で、他のことに注意が向いているということです。これでは麻痺側上下肢を管理することはできません。
また、寝返りで手足を置き去りになることを記憶していれば、代償手段を用いることができるはずです。それをしないというのは、手足が置き去りになることをまるで初めて体験することかのように忘れていると判断できます。
ですので、注意障害や認知障害が強くみられる患者さんは、自分で麻痺側上下肢を管理することが難しくなるため、適時援助者がサポートする必要性があることを知っておくと良いでしょう。