日本は超高齢社会であり、2017年現在4人に1人が高齢者です。
高齢になると身体が衰えるだけでなく、認知機能も衰えてきます。
認知機能の低下は、加齢によるものから脳卒中やアルツハイマー型認知症などの病気によっても起こります。
認知症患者は高齢化に伴い加速的に増えており、2025年には700万人に到達するといわれています。
今回ご紹介する「改定長谷川式簡易知能評価スケール」は、医療・介護の現場では広く使われているものです。
道具も簡易的なものしかいらず、どの人が評価しても比較的再現性の高い検査になります。
一般の方でも簡単に検査できるものですので、気軽に試してみるのもありでしょう。
(※検査する前には注意点も必ずお読みください。)
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改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは
この検査が生まれた経緯と特徴について簡単に解説します。
もともと1974年に長谷川式簡易知能評価スケールが作られ臨床でも広く使われていましたが、1991年に採点基準が見直され改訂長谷川式簡易知能評価スケールが改訂されました。
現在でも病院や施設で広く使われたおり、認知機能を把握するのには有用な検査です。
検査の目的や特徴
目的
記憶を中心とした高齢者のおまかな認知機能障害の有無をとらえることを目的としています。
特徴
質問は9個と少なく、検査者は本人の生年月日さえ確認できればおよそ5~10分程度で検査が行えます。
30点満点中何点かで認知症の程度がわかり、採点によりどの程度の認知機能なのかが判断できます。
(採点基準については後述しています。)
【PDF・アプリ】評価表のダウンロード可能
以下が評価用紙になります。
ダウンロード可能ですので、クリックして印刷してください。
iPadをお持ちの方ですと、こちら▼のアプリでも評価ができますので試してみてください。
具体的な検査方法について。検査結果をどう解釈すれば良い?
【質問1】年齢
「お歳はおいくつですか?」と問い、満年齢を正確に言うことができれば1点を加えます。
2歳までの誤差は正解と見なします。
年齢が言えずに生年月日を答えた場合、この質問では生年月日を質問しているわけではないので誤答とします。
この質問からわかること
自己の見当識や長期記憶力をみています。
【質問2】日時
年・月・日・曜日を質問します。
「今日は何月の何日ですか?」
「今日は何曜日でしょうか?」
「今年は何年ですか?」
とゆっくりと別々に質問しましょう。
また、どの順番で質問しても良いです。
"年"に関しては西暦でも正答とします。
質問に対して正確に答えられた場合は、それぞれ1点ずつ加えます。
この質問からわかること
日時の見当識をみています。
【質問3】場所
「私たちが今いる場所はどこですか?」と質問します。
被検者が自発的に答えられれば2点とします。具体的な病院名や施設名、住所などが言えなくてもよいです。自分が今いる場所が本質的に理解していれば正答とします。
また、他の施設名を答えても、その施設が現在の施設と同一種であれば正答とします。病院に入院しているのに、「○○のデイサービス」などと言った場合は誤答となります。
自発的に答えられなかった場合、5秒おいてから「ここは病院ですか?施設ですか?家ですか?」と質問し、その中から正しい選択ができれば1点とします。
この3つのヒントは決まったマニュアルはなく、「家ですか?施設ですか?デイサービスですか?」と質問を変えても良い。
この質問からわかること
場所の見当識をみています。
【質問4】3つの言葉の記銘
「これから言う3つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください。」と教示します。
「桜・猫・電車」または「梅・犬・自動車」のいずれか1つを選択し、採用した系列に○印をつけておきます。
質問はゆっくりと1秒くらいの間隔をおいて提示します。
1つの言葉に対して各1点を加えます。同じ言葉を繰り返しても加点はしません。
1つでも誤答もしくは答えられなかった場合は、正しい答えをもう一度教えて覚え直してもらいます。もし、3回以上言っても覚えてもらえない場合はそこで打ち切り、【質問7】の言葉の想起の項目も除外して採点していきます。
この3つの質問は他の言葉に置き換えてはいけませんので注意してください。
この3つの言葉は「植物の名前」「動物の名前」「乗り物の名前」から連想する言葉として、認知症の人および健常高齢者も共通して連想する言葉の上位2つから選んで作成されています。
ですので、必ずこの3つの言葉をセットで使用することです。
この質問からわかること
作業記憶や即時記憶をみています。
【質問5】計算問題
100から7を連続して引く問題です。
「100引く7はいくつでしょう?」「それからまた7を引くといくつになりますか?」と問うていきます。
注意点としては、100引く7の回答の"93"を検査者が繰り返し言ってはいけません。必ず「それから7を引いてください。」というように問うていきます。
最初の引き算で誤答があればそこで打ち切ります。
この質問からわかること
注意力や計算能力、近時記憶をみています。
【質問6】数字の逆唱
「これから言う数字を逆から言ってください。」と教示します。
最初に「6-8-2」を逆唱してもらます。つまり「2-8-6」と答えることができれば正答ですので1点を加えます。
次に「3-5-2-9」を逆唱してもらいます。
必ず決められている数字を使用すること。
最初の逆唱に失敗しればそこで打ち切ります。
数字を提示するときは、ゆっくりと1秒間隔くらいのスピードで提示します。
テストに入る前に、例えば「これから言う数字を反対から言ってみてください。1-2-3を反対から言うと?」とうように練習問題を入れると良いでしょう。
この質問からわかること
即時記憶や作業記憶をみています。
【質問7】3つの言葉の想起
【質問4】で覚えてもらった言葉をもう一度言ってもらいます。
「先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってください。」と教示します。
3つの言葉を自発的に答えられたものに対して各2点を加えます。
もし答えられなかった言葉があった場合には、少し間隔をおいてからヒントを与え正答すれば1点とします。
ヒントとしては、桜に対しては「1つは植物でしたね。」、猫に対しては「動物でしたね。」、電車に対しては「乗り物でしたね。」と提示します。
くれぐれも「植物と乗り物がありましたね。」と続けてヒントを出すのではなく、被検者の反応を見ながら1つずつ提示していきます。
ヒントも「春に咲く綺麗な木」や「お花見」などのヒントは使用してはいけません。
この質問からわかること
短期記憶をみています。
【質問8】5つの物品記銘
5つの物品を記憶して言えるかをみるテストです。
「これから5つの物品を見せます。それを隠しますので何があったかを言ってください。」と教示します。
物品は、時計、鍵、スプーン、ペン、硬化などを用います。
物品の指定はないですが、必ず相互に関係性のない物を用いるようにします。
例えば、文具として鉛筆と消しゴム、ノート、ハサミは相互に関係性があるといえます。
食器類として、スプーン、フォーク、箸、茶碗、コップも関係性がありますので、一緒に用いないようにします。
被検者が物品が何であるか理解していることも重要ですので、一つずつ「これは何ですか?・・・はいそうです。時計ですね。」と確認させながら提示していきます。
「それではこれらの物を隠します。ここにあったものをもう一度言ってください。答える順番はどうでも構いません。」と言った後に物品を隠します。
すぐに答えられなくても待ってみるくらいの余裕を与えましょう。1~2分待っても想起できない場合は打ち切ります。
この質問からわかること
視覚的記銘、非言語性記銘、即時記憶をみています。
【質問9】野菜の名前
「知っている野菜の名前をできるだけたくさん言ってください。」と教示します。
じゃが芋、長芋、さつま芋など芋類が続いても正答とします。豆類が続いても正答です。
果物は野菜ではないので誤答とします。
具体的な野菜の名前を検査用紙の空欄に書き出し、重複したものは採点しないように注意します。
この質問は言語の流暢さもみていますので、途中で詰まり10秒待っても次の野菜の名前が出てこなかった場合はそこで打ち切ります。
採点方法 | |
1~5個 | 0点 |
6個 | 1点 |
7個 | 2点 |
8個 | 3点 |
9個 | 4点 |
10個 | 5点 |
この質問からわかること
前頭葉機能、言葉の流暢性をみています。
採点基準「点数から認知度を確認」
以上の9つの質問の得点を加算し、評価点とします。
満点は30点。20点以下の場合は認知症の疑いありとなります。
重要度 | 平均得点 SD(標準偏差) |
非認知 | 24点 ± 3点 |
軽度 | 17点 ± 4点 |
中等度 | 14点 ± 2点 |
やや重度 | 9点 ± 4点 |
重度 | 4点 ± 3点 |
点数以外の被検者の反応からわかること
・意識や注意力
・言い繕い
・保続(同じことを何度も言う)
・検査者や家族に依存
・発動性
・回答時の速度
・態度
なども合わせて観ておきましょう。
脳血管障害の急性期やそもそも課題に集中していない場合は、ぼーっとした反応を示します。
アルツハイマー型認知症では、言い繕いや他の人に回答を求めるなどの依存性がみられます。
脳血管性の認知症やパーキンソン病などがあると回答速度が遅かったり、反応が鈍い場合があります。
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検査の注意点
この検査は、事前によく説明しておくことが大切です。
いきなり「認知症のテストをします。」などと言ってしまうと被検者を傷つけてしまう恐れがありますので、信頼関係が築けてから行うのが望ましい場合もあります。
また、必ずしも全ての質問を一気に終わらせる必要ななく、日常会話を織り交ぜながら聞きやすい質問から教示しても構いません。
ただし、質問4~7は順番通りに続けて行わなければいけません。
被検者に不快感を与えないための工夫としては、検査を始める前にしばらく世間話をして本人にリラックスしてもらってから始めましょう。
被検者には「今からいくつか記憶のテストをします。答えられる範囲で結構です。」や「少し頭の体操をしましょう。」などと言い、検査を始めると良いです。
「認知症のテストをします。」などと言うと気分を害す恐れがありますので、言葉には十分気を付けましょう。
また、一通り検査が終われば「疲れましたか?」と言葉をかけたり、最後の質問の「野菜」をテーマにした話をするなどして嫌な気分のまま検査を終わらせないような工夫も必要です。
検査する環境は、刺激の少ない場所(個別訓練室や応接室、相談室など)が望ましいです。
ベッドサイドで実施しても構いませんが、同室者に不穏などがある場合やテレビ、ラジオなどの音が流れている場合は被検者が集中できなくなりますので場所を変更する必要があります。
HDSーRは、病院や施設の書類上でもよく記載されるものですので、失語症の方や音声障害、聴覚障害、視覚障害があっても検査をする場合もあります。ただし、検査不適合の場合はその旨を記載し、参考記録として残します。
聴覚障害の方では、筆談での回答も大丈夫です。視覚障害の場合は質問8は実施せず、点数は参考記録として残しておきます。
参考文献
1)図解 理学療法検査・測定ガイド 第1版
2)改訂長谷川式知能評価スケール.リハビリナース6(1)34-37.2013