理学・作業療法士に向けて呼吸筋のストレッチや呼吸練習、呼吸介助の方法についてわかりやすく解説しています。
臨床で使える知識ですので、参考にして下さい。
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胸郭の構造とは
まずは、胸郭の構造を整理しておきましょう。
胸郭
胸郭は、
- 胸椎(第1~12)
- 肋骨(第1~12)
- 胸骨(胸骨柄、胸骨体、剣状突起)
- 肩甲骨
により構成されています。
前方より観察
後方より観察
横から観察
横から観察すると、各肋骨が上後方から下前方へ走行しています。
肋骨は12対あり、胸郭前方で胸肋関節(胸骨と肋骨との関節)を形成しています。
胸郭後方では肋骨と胸椎で関節を形成しており、これを肋椎関節といいます。
肋椎関節には肋骨頭関節と肋横突関節があります。
第1~7肋骨は胸骨と連結しており(真肋という)、残りの5対は胸骨と連結していない(仮肋という)。
第8~10肋骨は軟骨で結合されていますが、第11・12肋骨は連結していません(浮肋)。
また胸郭は肋骨を取り巻く筋系(横隔膜、外肋間筋、内肋間筋、胸鎖乳突筋、斜角筋群、三角筋、菱形筋など)によっても構成されています。
呼吸に関与する筋
後述する呼吸筋のストレッチに必要な知識になりますので、覚えておきましょう。
吸気に働く筋
健常者の場合、安静時吸気は主に横隔膜と外肋間筋の働きによるものです。
他には、斜角筋群、大小胸筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋、内肋間筋前部なども補助的に働きます。
呼気に働く筋
健常者の安静時呼気の筋活動はみられません。
通常は、吸気により胸郭が拡張、肺が膨張した後、弾性により元に戻ろうとする働きで呼出されます。
よって、安静時呼気では、吸気筋の弛緩によって受動的に呼出されますので、エネルギーはほぼ必要ありません。
しかし、強い呼気(努力呼気)や吸気筋の過緊張時にはその限りではありません。
努力呼気では、内肋間筋横・後部が胸骨を引き下げ、さらに内外腹斜筋、腹横筋、腹直筋などが働き横隔膜を上方へ押し上げ胸腔内を狭くすることで、空気を排出します。
呼吸に関わる筋(まとめ)
安静時 | 努力時 | |
吸気筋 | 横隔膜、外肋間筋、内肋間筋前部 | 僧帽筋、斜角筋群、胸鎖乳突筋、大小胸筋、腰方形筋、肋骨挙筋、肩甲挙筋 |
呼気筋 | 胸郭、肺の弾性収縮、内肋間筋 | 内肋間筋横・後部、腹直筋、内外腹斜筋、腹横筋 |
胸郭の動き「上部と下部の違い」
胸郭は上部、下部で違う動きをしています。呼吸筋へのストレッチや呼吸介助の際に必要な知識になるので、覚えておきましょう。
上部肋骨(第1~6肋骨)の動き
上部胸郭(第1~6肋骨)では、肋椎関節面(肋骨と胸椎との関節)がやや前方を向いています。そのため、吸気時には胸骨を中心に肋骨の前上方への運動がみられます。
この動きは、ポンプの取っ手様、またはポンプハンドルモーションと呼ばれています。
下位肋骨の動き
下部胸郭(第7~10肋骨)では、肋椎関節の関節面がやや外側を向いています。そのため、吸気時に外側への運動がみられます。
この動きは、バケツの取っ手様、またはバケツハンドルモーションと呼ばれています。
呼吸筋のストレッチ方法
自然呼吸の際には、それほど多くの筋は働きませんが、呼吸器疾患を有する患者の呼吸は努力性になっていることが多くみられます。
呼吸筋へのストレッチでは、努力性になっている吸気筋の緊張を解いていく必要があります。なぜなら、吸気筋が弛緩しなければ呼気が生じないからです。
まずはリラックスした姿勢を確保する
呼吸筋へのリラクセーション効果を得るためには、患者に安楽な姿勢をとってもらうことが大切です。
臥床時には枕やクッションなどを使用し、肩甲帯などの肢体が床から浮き上がらないようにします。
呼吸困難感がある場合
- ファーラー位
- セミファーラー位
- 側臥位
などをとります。
さらに呼吸困難感がある場合には机の上に両上肢を乗せた前傾座位も有効です。
大きい筋からストレッチをしていく
努力吸気に関与する筋群は前述したように、僧帽筋、斜角筋群、胸鎖乳突筋、大小胸筋、腰方形筋、肋骨挙筋、肩甲挙筋などがありますが、これらは自然呼吸を代償するための過緊張となりやすい筋群です。
各筋への触診にて硬くなっている筋群を特定し、これらの筋の伸張性、収縮性を確保し働きやすい状態に整えておくことが大切です。
ストレッチの方法ですが、呼気に合わせて指尖で圧迫を加えながら各筋へダイレクトストレッチを行っていきます。
患者の中には筋緊張が亢進していることを認知できない人もいますので、その際はPNFで用いられているホールドリラックスが効果的です。
例えば、僧帽筋上部線維の緊張を緩和するには、患者は吸気に合わせて肩甲骨を挙上し、療法士がその動きに抵抗を加えます。
次に患者に息を吐いてもらい力を抜い、療法士は患者の呼気と筋の脱力に合わせて筋を伸張方向へストレッチをしていきます。
内肋間筋のストレッチ
ストレッチをする際は吸気に行います。
療法士は、胸郭前面の肋骨間に手を添えます。患者の吸気に合わせて肋骨間を広げていきます。
内肋間筋は下縁の肋骨から上内側に向かって走行しているため、走行に合わせて肋骨間を広げます。
外肋間筋のストレッチ
ストレッチをする際は呼気に行います。
療法士は、胸郭外側の肋骨間に手を添えてます。患者の呼気に合わせて肋骨を内下方へ押し下げます。
外肋間筋は上縁の肋骨から下内側に向かって走行しているため、走行に合わせてストレッチをしていきます。
横隔膜のストレッチ
剣状突起(みぞおちの辺り)の下から肋骨下縁で触れることができます。
呼吸困難感がある人では、臥位よりも臓器の抵抗が少ない座位のほうが横隔膜が収縮しやすいため、患者の状態に合わせて姿勢を変える必要もあります。
触診方法としては、患者が吸気のときに療法士は横隔膜に母指を添え、呼気に合わせて母指で胸郭を持ち上げるようにストレッチしていきます。
横隔膜は、大腰筋とも連結しているため合わせて評価しておきましょう。
胸郭全体のストレッチ
胸郭を取り巻く筋をストレッチする方法をご紹介します。
療法士による徒手療法とは違い、家族でも比較的やりやすい方法です。
胸郭全体のストレッチ効果
- 呼吸筋の短縮改善
- 胸郭の拡張制限改善
禁忌
- 肋骨骨折や開胸・開腹術後
- 胸腔ドレナージ挿入部
- 骨粗鬆症、脊柱に痛み
- 皮膚の脆弱性など
また、過度なストレッチで肋骨を痛めたりしないように愛護的なストレッチを心がけることが大切です。
患者には背臥位または側臥位で、患者の一側上肢を頭側へ挙上させます。療法士は一方の手で患者の上肢を支え、もう一方の手で胸郭(上部または下部肋骨)に手を添えておきます。
患者の呼気に合わせて、療法士は患者の上肢を牽引し、胸郭を下方へ押し下げます。
吸気の際には上肢の牽引や胸郭に当てた手を緩め、吸気を阻害しないようにします。
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呼吸練習
呼吸練習をすることで、患者の呼吸困難感の軽減や換気効率の改善を図ることができます。
また、療法士がいない日常生活でも実施することができるため生活指導としても取り入れておくべきです。
口すぼめ呼吸
口すぼめ呼吸は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼気終末の気道閉塞や肺胞虚脱を防止する目的で行われる呼吸法です。
通常の呼気では末梢気道が閉塞してしまい換気がうまくいきませんが、口をすぼめることで気道内が陽圧になり、末梢気道の虚脱が防げるため、呼気が十分に行われます。
方法としては、吸気:呼気=1:3~5の割合で呼吸をしてもらいます。呼気は口をすぼめ「フー」または「スー」っと息を吐いてもらいます。呼吸数は10回/分程度を目標とします。
呼気を意識しづらい場合には、口の前に手をかざすかティッシュに息を吹きかけるなどして確かめるのも良いでしょう。
口すぼめ呼吸を行うことで、臨床的にも呼吸困難感の軽減、SpO2の改善をよく経験します。
横隔膜呼吸、腹式呼吸
横隔膜呼吸とは、腹部の拡張運動を強調させる呼吸法のことです。
吸気に横隔膜の収縮により臓器が下方移動します。その結果、吸気に腹部が膨隆します。呼気には横隔膜が弛緩するため、膨隆していた腹部が元に戻ります。
横隔膜呼吸の有用性と禁忌について
横隔膜呼吸の有用性
- 呼吸補助筋の活動(上胸部の動き)が抑制され、横隔膜の活動(腹部の動き)が増加する。
- 呼吸困難が軽減する。
- 1回換気量が増大し、呼吸数は減少する。
- ガス交換が改善する。
- 長期トレーニングにより最大換気量や肺活量が改善する。
- 運動耐用能やADL遂行能力が改善する。
(日本呼吸管理学会ほかによる)
横隔膜呼吸の適応外
- 胸部レントゲン画像上、肺過膨張が強い。
- 胸部レントゲン画像上、横隔膜(肋骨横隔膜角領域)の癒着が存在する。
- 重度肺機能障害を有する。
- 高度呼吸困難感、特に安静時呼吸困難感が存在する。
- 横隔膜呼吸により、呼気努力の増大、腹部の奇異性呼吸が出現する。
以上5項目のうち1項目でも該当する患者は、横隔膜呼吸の適応外である。
(神津らによる)
横隔膜呼吸(腹式呼吸)を確認する方法
背臥位、または側臥位で行います。(側臥位の場合は、下側の肺の換気に適している)
腹部に手を添えておき、腹部の動きをモニタリングしておきます。
吸気:呼気=1:2~3の割合で呼吸をします。1日の練習時間は6~10分程度と短くし、頻回に行うが望ましいです。
呼吸介助法
呼吸困難感がある患者に対して、呼吸に伴う息苦しさや不快感を軽減する目的があります。
呼吸困難の訴え方としては、「息苦しい」「息が吸えない」「胸が重たい」などいろいろな表現をします。
ただし、呼吸困難感とSpO2や血ガス値などの各種テータと必ずしも一致するわけではありません。健常人でも激しい運動をすれば息切れはしますし、重症化した症状の人では呼吸困難感をそれほど訴えない場合もあります。
症状や検査値などを確認しながら、呼吸状態を把握しておくことが大切です。
呼吸介助法の適応
- 呼吸の喚起を改善したい場合
- 運動療法中の呼吸困難感出現時
- 気管支喘息発作時
呼吸介助の禁忌
- 血行動態が不安定
- 肋骨骨折
- ショック状態
- 肺梗塞
- 肺出血
- 未処置の気胸
呼吸介助のポイント
- できるだけ患者にはリラックスした姿勢をとってもらう。
- 患者の呼気(息を「フー」と吐く)に合わせる。
- 介助方法としては、上部胸郭では肋骨前面から下方へ誘導、下部胸郭では肋骨外側から内下方へ誘導する。
- 吸気には圧迫を開放し、吸気を妨げないようにする。
実施する姿勢は、背臥位や側臥位、座位、立位などでも行えます。
基本的には背臥位や側臥位で行いますが、運動中などでは座位や立位でも行います。
背臥位(上部胸郭介助)
背臥位(下部胸郭介助)
座位(上部胸郭介助)
座位(下部胸郭介助)
運動中に呼吸困難が生じた場合、患者自身が不安になりさらに呼吸が乱れることがあります。
その際はSpO2などの数値を確認してもらい、大丈夫であることを説明して安心してもらうことも大切です。
気持ちを落ち着かせるとともに、できるだけ安楽な姿勢を確保します。前傾座位や前傾立位など患者が楽に感じる姿勢はさまざまですので予め姿勢の評価もして必要もあります。
COPD患者では、上部胸郭優位の呼吸になっているため、下部胸郭を介助するよりも上位胸郭を介助するほうが有効です。また、患者に口すぼめ呼吸を併用してもらうとより効果的です。
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