失認は高次脳機能障害の一つです。
高次脳機能障害とは、その名の通り高次の脳機能の障害ということで、主にな大脳皮質レベルでの障害のことを指しています。
ここでは、リハビリ場面で療法士がよく診る失認の評価やリハビリ方法を解説しています。
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失認とは
通常であれば、視覚、聴覚、触覚などの感覚を介して対象が何であるかわかります。
つまり、感覚を通して脳で認知することができるということです。
失認とは、
「感覚障害、知能障害、意識障害などがないにもかかわらず、感覚を通して呈示された物の認知ができない状態のこと」
をいいます。
その中には、空間や身体の認知障害も含んでいます。
また、ある特定の感覚での認知ができないといった特徴があります。
例えば、視覚的な情報処理に問題があり、その物を見ても何であるかわからないが、触ったりするなど別の感覚を介せば認知できるものを指しています。
失認の種類
失認の種類は主には、
半側空間無視
身体失認
病態失認
ゲルストマン症候群
視覚失認
聴覚失認
触覚失認
などがあります。
そのほとんどが劣位半球の障害でみられますが、優位半球または両側の障害でみられる場合もあります。
例えば、右利きの人は左側の脳が優位半球ということになります。
半側空間無視とは
半側空間無視(unilatral spatial neglect:UNS)とは、左右どちらかの刺激に気づかず反応しない状態のことをいいます。
例えば、
食事の際に左側の食べ物に気づかず残してしまう、歩いていて左側の物にぶつかってしまうなどの現象がみられます。
この症状は脳卒中でよくみられ、急性期の劣位半球の脳卒中患者のうち約4割に左側の半側空間無視が出現するといわれています。
優位半球障害でも半側空間無視が出現する場合もありますが、そのほとんどが一過性であることが多いです。
半側空間無視の病巣とメカニズム
半側空間無視のメカニズムとして、いくつかの説がありますが、Kinsbourneの仮設ではそもそも左右の大脳では空間に注意を向ける力に左右差があるといっています。
これを注意不均等説といいます。
注意不均等説 |
もともと右側に対する注意が強く向きやすいため、左半球により右側への注意が強く向きすぎないように抑制しています。
このような状況下で劣位半球(右脳)が障害されてしまうと、右への注意を抑制する力が弱まり、結果的に右へ注意が向きやすくなるということになります。
病巣としては、主に劣位半球頭頂葉後部、特に下頭頂小葉の病変でみられます。
ただ、広範囲の脳の機能障害でもみられることは多々あります。
半側空間無視の検査と評価
簡易的によく用いられる検査として、
●線分二等分試験
●線分末梢試験
●図形模写
があります。
線分二等分試験
下の図のように横線を書いた紙を提示し、検査者は横線の中央に縦線を引きます。
半側空間無視があると、下の図のように中央よりも右側に線を書いてしまうことになります。
線分末梢試験
下の図のように、短い線が書かれた紙を提示し、右上の3つのように一つひとつの線に印をつけていきます。
半側空間無視があると、左側の線にチェック漏れが目立ちます。
図形模写
図形を提示し、同じように書き写してもらいます。
半側空間無視があると、左側に書かれているものを見落として書き写すことになります。
半側空間無視のリハビリ
半側空間無視は、方向性注意障害ともいわれいます。
つまり、半側の注意力が極端に落ちた状態ということです。
半側空間無視は、注意障害も同時に併発していることも多く、基本的には注意障害に対するリハビリと同じ内容になってきます。
注意障害のリハビリ方法)
まずは、覚醒度を向上させ、注意の範囲を広げていきます。その次に注意を左側へ転換していきます。
注意を左側へ移動するには、まずは物の右端を認知させ、目で追わせたり指でなぞりながら左端を認知させていく方法があります。
身体失認とは
身体失認にもいろいろは症状があります。
一般的には自己の半側を同定できない状態をいいます。
例えば、患者の手を触り
「これは誰の手ですか?」と質問しても、
「これはあなたの手です。」と返答したりします。
また、動作において反対の手足があたかもないかのように雑な動きになっていたりする場合もあります。
病巣としては、劣位半球の頭頂葉の障害でよくみられます。
病態失認、身体パラフレニーとは
麻痺の存在や病態を否定するような状態をいいます。
麻痺自体の存在を否定している場合、それが病態失認によるものなのか身体失認によるものなのかは混同する場合もあります。
また、自分の手で麻痺側の手を確認させても、それが赤ん坊の手などと奇妙なことを主張する場合があり、これを身体パラフレニーと呼ばれています。
主に中大脳動脈の脳梗塞などで、劣位半球の大脳外側の広範囲な障害でみられます。
視覚失認とは
視覚障害、半盲、視野狭窄などがないにもかかわらず、目で見ただけでそれが何であるかを認知できない状態のことをいいます。
しかし、手で触れたり、音を聞くなど別の感覚を介せばそれが何であるかがわかります。
視覚失認には、見えているものを一つのまとまった形で認知できない純覚型視覚失認と、携帯は認知できても意味付けができない連合型視覚失認があります。
病巣としては、優位半球の側頭葉ー後頭葉の障害でみられます。
特異的は視覚失認(相貌失認、地誌的見当識障害)
相貌失認や地誌的見当識障害があります。
相貌失認とは、人の顔の区別がつかない状態をいいます。先天的にも2%程度は相貌失認が存在するともいわれています。
地誌的見当識障害とは、よく知っている土地や建物の中で迷ってしまう状態のことをいいます。いわゆる方向音痴の状態になってしまいます。
病巣としては、劣位半球の側頭葉ー後頭葉の障害でみられます。
聴覚失認とは
聴覚的な情報処理に問題が生じ、人の話や音楽などを聴いて、音は聞こえてもその内容がよくわからないという状態のことをいいます。
聴覚失認には、非言語の認知のみ障害される場合と言語音も含めて障害されている場合があります。
病巣は上側頭葉後部であり、前者の症状は劣位半球の障害で、後者は両側の障害でみられます。
触覚失認とは
体性感覚に異常がないにもかかわらず、物に触れてもその名称や用途が認知できない状態をいいます。
病巣としては、優位または劣位半球の下部頭頂葉ー後頭葉後部でみられます。
ゲルストマン症候群とは
手指失認、左右失認、失書、失算の4症状を合わせてゲルストマン症候群(Gerstmann)といいます。
手指失認
手指のそれぞれの同定ができない。
左右失認
左右の判断ができない。
失書
書字をしたり、書取りができない。
失算
暗算や筆算ができない。
これらの症状は、優位半球の角回周辺(頭頂葉下部ー側頭葉上部)の障害でみられます。
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失認の検査と評価
視覚失認では、スクリーニングとしては物品の呼称、物品の絵の呼称などがあります。
検査バッテリーとしては、標準高次視知覚検査(VPTA)があります。
聴覚失認では、目を閉じてもらい太鼓の音やコップを叩く音など日常聞き慣れた音を聞かせ、それが何の音なのかを答えてもらいます。
触覚失認では、目を閉じてもらい鍵、コイン、スプーンなど日常触り慣れた物に触れさせ、それが何かを答えてもらいます。
病態失認や身体失認、ゲルストマン症候群では、その病態が疑われた場合にいくつかの質問をしたり、実際に課題を提示してみたときの反応から明らかにすることができます。
失認のリハビリと支援
失認の病態は、感覚入力から認知の過程のどこかに問題があります。
そのため、どこに問題が生じているのかを評価し、それに合わせたリハビリをしていくことが大切です。
視覚失認などでは反復していくことで徐々に症状が改善していきますが、少し見る角度が違うと認知できなくなる場合もあります。
物の全体を見ることができていない例もあるため、視線を上下左右へ広げるなどして見る範囲を広げていく練習をしていきます。
日常生活の工夫としては、持ち物をわかりやすい色に統一したり、決まった場所に置くなどで対応していきます。
また、相貌失認では顔の特徴以外の部分(髪型や声、服装)などの特徴である程度同定可能になる場合が多いです。
身体失認や病態失認では、根気よく身体半側へ注意を向けさせ意識付けをしていくことが大切です。
失行の評価とリハビリ方法はこちら)
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