僕の勤める病院では、昨年4月に8人の新人理学・作業療法士が入職しました。
僕は新人教育の係を担当しているのですが、臨床経験のない8人の新人さんをいっぺんに教育してみてわかったことは、彼ら・彼女らが共通して苦手とすることは患者さんの予後予測だということです。
なぜ予後予測が苦手なのか。
その理由を考察してみました。
そして、新人理学・作業療法士はどう対策を打てば良いのかも解説しますので、是非参考にしてください。
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新人理学・作業療法士がなぜ予後予測が苦手なのか?
療法士だけでなく、医師もそうですが予後予測ができることが専門化として特化した能力ではないでしょうか。
医師では、末期癌の患者さんに「余命半年です。」などと、家族に説明することがありますが、臨床験値の豊富な医師ほど高い確率で言い当てることができます。
末期癌では、5年生存率何パーセント。この治療をすれば何パーセントの人に効果があった。
などのように過去のデータがありますので、それらを参考に予後を予測することができます。
これがいわゆるエビデンス(科学的根拠)というものです。
しかし、実際にはエビデンスにだけ頼っていても予後予測はできません。
これは療法士が行う予後予測も同じです。
例えば、約1カ月の不動の肢位を取り続けると関節拘縮は不可逆性になる。
という研究データをいつくか見たことがあるので、僕はこのデータをよく参考にしているのですが、全員がこのデータ通りの結果になるわけではありません。
例えば、一次性の筋緊張が高い、疼痛があるなどの条件が加われば、これよりも早期に拘縮が起きる可能性もあります。
逆に筋緊張の弛緩がみられる場合には、いくら寝たきりでも拘縮が起こるはずがありません。
患者さんの予後を決定づける因子をいくつか挙げてみますが、
年齢、性別、体格、栄養状態、意欲、病状、病気の経過、治療内容、認知度、活動度。
これら全てが目の前の患者さんに合致したエビデンスを構築するのは難しいのが現状です。
エビデンスは根拠と認識されているところがありますが、結局のところ過去の統計的データの蓄積であり、根拠というものは未来へのヒントに過ぎません。
さらには、病院や施設の介護力、病院のシステムや雰囲気なども予後に関係してくるのでもはや現場レベルで考察するしかありません。
だからこそ、療法士は臨床経験を積み、自らの経験に基づくデータを構築していく必要があるのです。
臨床力とは、知識 × 経験というふうに言われたりもします。
知識は文献などでいくらでも補充できますが、やはり実践しないことには経験値は上がってきません。
ここまで読んでみるとわかると思いますが、つまりは新人理学・作業療法士が予後予測が苦手な理由は経験値が足りないからです。
そりゃあ、入職したてで経験値がないのは当たり前で、予後予測が苦手なのも当たり前という構図になります。
臨床的データを蓄積するためには
過去の研究データを調べたり、参考書を読み漁るのも大事なことですが、自分なりのデータを蓄積していくためには、予測した予後がどのような結果であったかを省みることが最も大切なことです。
行き当たりばったりの予後予測をしてもその通りになる確率は下がりますし、根拠ある考察をしたのに結果を振り返りもしなければ、経験値は上がっていきません。
予測したことが当たっていたのか。
外れたのか。
外れたならどの情報が不足していたのかを振り返ることで経験値が上がっていくのです。
新人理学・作業療法士はどう対策を打てばいいの?
経験値がないから予後予測ができないと言ってしまったら、経験を積むまで待つのかってことですよね。
そんな悠長なことしてたら目の前の患者さんはたまったもんじゃないですね。
予後予測はどうやってするのかですが、患者さんの取り巻く様々な情報を統合して解釈しているのです。
つまり、情報がないことには予後予測ってできないんです。
これが新人さんには難易度が高いために予測をハズしてしまうんです。
ここで新人理学・作業療法士が行動を起こすべきは、先輩への報・連・相です。
なんだ、よくあることかいな!と思うかもしれませんが、これめちゃめちゃ大事ですよ。
経験がないなら、経験値のある先輩に聞くのが最も予後予測をハズさないコツなんです。
ただ、経験のある先輩とはいえ情報なしには予後予測はできません。
報告・連絡は、先輩への情報提供だと認識しましょう。
連絡は事前情報の提供。
報告は事後情報(結果)の提供。
そして、相談はどのような行動をとるべきかを助言してをもらう場です。
理学・作業療法士って、学生時代から自分で考えないとダメだって意識が植え付けられてますよね。
自分で考えてから、先輩にアドバイスをもらいにいかないといけない。
そう思っていませんか?
自分で考えてもわからないなら、すぐに先輩に聞きいくほうがいいと僕は思います。そのほうが患者さんのためにもなります。
新人さんの中には、先輩に相談しに行ったのに、根掘り葉掘りと質問責め、もしくはダメ出しをぐちぐちと言われて、萎縮している人は多いかもしれませんね。
せっかく勇気出して相談しに行ったのにって感じですよね。
なんで質問攻めに合うかというと、日頃から連絡と報告をしていないからじゃないでしょうか。
先輩の立場になって考えてみると、事前情報も事後情報(結果)もわからないから色々と聞き出そうと質問攻めになってしまうわけです。
相談ともなると、ディスカッション(議論)になるので先輩も質問責めになりやすいのですが、日頃から連絡と報告をきっちりしておけば、そのような面倒な質問責めは少なくなります。
連絡と報告って事実をそのまま伝えるだけなので、そんなに難しくはないはずです。
例 | |
連絡 | 「この患者さんの杖歩行の練習をしようと思います。」 |
報告 | 「この患者さんの杖歩行をしてみたら、うまく歩けました。」 |
たったこれだけを伝えればいいんです。事実を伝えるだけです。
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何気ない会話からディスカッション(議論)に発展するもの
新人さんって、どうやって先輩に相談しに行ったらいいかわからない人って多いんじゃないですか。
悩んだ挙句、相談に行くタイミングを逃すみたいな。
僕は一応中堅どころにあたるので、後輩の相談に乗ることが多くなってきましたが、僕たちって別に高度な情報共有をしているわけではないんですよね。
休み明けだと「昨日あの患者さんを見てくれてありがとう。どうだった?」みたいな簡単なやりとりから会話が始まります。
そこから、「あの患者さんはどのくらい能力が上がるかなぁ・・・?」って感じでディスカッションに発展することが多いです。
ディスカッションのきっかけは、何気ない会話からです。
普段からしつこいくらいに先輩にどんどん情報提供をしておけば、経験のある先輩が上手いこと予後予測を立ててくれます。
まとめ
要するに予後予測ができるようになるには、臨床における経験値が必要です。
解決策は、先輩への報・連・相だとか社会人として当たり前のことかいな。と思われたかもしれませんが、これが出来ていない新人療法士は多いです。
ちなみにですが、最近僕は心臓リハのことも勉強していて、ある程度知識がついたとは思いますが、実際には急性期の本格的な心臓リハをしたことはありません。
もし、その現場に立ったときに的確な予後予測ができるかという話ですが、正直いうと自信はないです。
心臓リハはわりとエビデンスがしっかりしているほうなんですけどね。
やはり、その現場で必要とされる知識を補充しないといけないでしょうし、経験のある先輩から予後予測の修正をしてもらうことも必要なのだと思いますね。
ゴール設定の考え方も知っておきましょう)