ROM検査(range of motion test)は、理学療法士や作業療法士が最初に習う評価項目の一つではないでしょうか?
検査自体は患者さんの協力動作をほとんど要さないので、検査者も患者さんも比較的楽な検査ではあるかと思います。
各関節の検査方法については、教科書で取り上げられてますのでこの記事では割愛します。
「ROM検査の意義や目的は何?」
と問われると、上手く答えられない実習生や若手理学療法士や作業療法士は多いのではないかと思います。
そこで今回は、ROM検査の意義や目的を中心に解説していきます。
最後に検査のちょっとしたコツもお伝えしますので、是非参考にしてください。
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ROM検査の定義と目的
定義
ROM検査とは、「身体の各関節を自動的または他動的に動かしたときの関節の運動範囲を測定すること」
と定義されています。
目的
一般的に教科書でも記載されているROM検査の目的は以下の通りです。
①関節の動きを阻害している因子を発見する。
②障害の程度を把握する。
③治療法への示唆を与える。
④治療効果の判定をする。
ROM検査をする意義とは?
意義とは、平たくいうと「何のためにそれをするの?」「何の意味があるの?」ということです。
ROM検査をする意義とは、もっと具体的に、もっと実用的な視点が必要になります。
「股関節屈曲のROMを検査しているけど、何の意味があるの?」
「その検査をして何が知りたいの?」
など、より具体的かつ意味のある検査であること説明できないといけません。
ROM検査の精度を上げるポイント
一番最初に書いておきますが、ROM検査の精度を上げるには「目的に対して具体的な手段を用いること」です。
例えば・・・関節の動きを阻害している因子を発見する。
という目的があるとします。
この場合の手段を考えてみましょう。
よくみられるのが、ゴニオメーターなどで角度を測定しながら、制限因子も探ってしまうことです。
さらには、同時に筋の緊張状態も確認しようとしてしまうこともあります。
実際には、関節を動かし慣れていない検査者が、「あれも確認して、これも確認して・・・」といくつも目的をもって検査してしまうと、中途半端な測定結果になってしまうことがよくあります。
目的と手段を整理してみましょう。
目的 | 何度曲がるかを知ること |
手段 | ゴニオメーターで測定する |
目的 | 制限因子を探る |
手段 | 両手で関節を動かし、終末感(エンドフィール)を感じる。または、最終域で皮膚や筋を触診する。 |
このようにして、目的に合わせて手段を明確にすると検査の精度はグンと上がります。
一つずつ丁寧に評価するように心がけていきましょう。
ROM検査と他の評価との因果関係を知ろう
治療法の示唆や効果判定をする際にもROM検査を行います。
関節を全く動かさないと関節は硬くなり、制限が起こりやすいのはイメージしやすいと思います。
関節可動域制限の原因としては、不動の開始当初は筋の影響が最も強く、その後の不動期間の延長に伴い関節包を中心とした関節構成体の割合が増加していくといわれています。
筋の持続的な過剰収縮が生じると、その後に関節可動域制限が生じやすくなることを知っておくことが大切です。
筋の過剰収縮を引き起こす要因って何があるでしょうか?
●脳卒中による筋緊張異常
●骨折などによる疼痛
●ベッド上不安定な姿勢
などが挙げられ、ROM検査以外の評価との因果関係を調べておく必要があります。
経過から予後を考察する
ROM検査を測定するだけではあまり意味はなく、制限に至った経過や変化を加味して予後を予測することが大切です。
制限に影響を与える因子としては・・・
①不動期間、②手術や外傷の影響、③疾患などが挙げられます。
①不動期間
不動期間による関節周囲組織の変化
治癒組織 | 不動開始後の変化 |
関節構成体(滑膜、関節包、関節軟骨) | 4週後に滑膜の増殖や癒着が起こる |
筋 | 1ヵ月以内の浮動で筋の短縮が起こる |
腱 | 不動による制限因子にはなりにくい |
靭帯 | 3週間の不動でも制限が生じる |
筋膜 | 不動4週後に拘縮の発生要因になる |
いくつかの研究報告を見ると、約1カ月の間不動の肢位をとり続けると不可逆性になるといわれています。
②手術や外傷の影響
手術直後は、痛みのために一過性の持続的な筋収縮を起こすことがよくあります。
筋収縮に伴い関節不動を伴うと、筋の短縮により関節可動域制限を引き起こすきっかけになってしまいます。
③疾患の影響
脳卒中片麻痺や脊髄損傷、パーキンソン病にみられる持続的な異常筋緊張は関節可動域制限を引き起こしやすくなります。
治療内容の立案
ROM検査では治療効果の判定を目的にしてますので、治療内容をいくつか紹介しておきます。
具体的には、手術後の痛みから来る可動域制限がある場合、乱暴に動かすと痛みを誘発してしまい、ますます筋の持続的な収縮がみられるようになります。
ですので、痛みが収まるのを待ちつつ、愛護的に関節可動域訓練をしていきます。
寝たきりである場合には、クッションなどを使用しできる限りリラックスした姿勢を確保します。
関節包由来の制限ではモビライゼーション手技を用います。
筋に対するストレッチは効果がなく、むしろその後に制限を来す・・・と言われたりもしますが、あくまでも過度にストレッチを加えたり、痛みがあるほど伸張した場合には逆効果だということです。
実際にはストレッチも関節可動域制限を改善したとの報告がありますので、ストレッチも有効な手段であるといえます。
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他動運動と自動運動で検査する意義は?
理学療法士や作業療法士の実習でよく聞かれる疑問ではないでしょうか?
「他動運動で測った角度だと、日常生活をこなせるだけの角度はあるんだけどなぁ・・・」
といったことがあります。
例えば、自転車に乗るには膝は約120°ほど曲がればいいのですが、他動運動では120°曲がったけど、自動運動では110°しか曲がらない・・・
これでは、ペダルを漕げないわけです。
では、この10°の差は何からきているのでしょうか?
1つは、筋や靭帯などの伸展性の低下が考えられます。
他動運動では、目いっぱい軟部組織を伸ばした角度を測定していますが、自動運動ではそうはいきません。
2つ目に、痛みや筋緊張異常、協調性低下など、関節構成体や関節周囲の組織以外の原因が考えらえます。
このようにして考察を深めていくと、他動運動でも自動運動でも測定していく意義(意味)は大いにあるのではないでしょうか?
評価のちょっとしたコツ
ここから2つ例を挙げて、検査のコツをお伝えします。
膝関節の屈曲を測定するコツ
人工膝関節置換術など膝の手術をした人は、膝の屈曲を測定することに大きな意味があります。
下の図のように、膝の屈曲を背臥位で測定することは多いかと思います。
しかし、この状態は足が宙に浮いた状態ですので、患者さんの足に余計な力が入ってしまいます。
そうすると、膝をもっと曲げていきたいのに、筋緊張が邪魔して曲げていけなくなります。
座位が取れる人は座位で測定したほうが簡単
このように、大腿骨が座面に固定されていると大腿部周囲に余計な力が入らなくなります。
余計な筋緊張を抑制することができれば、真の制限因子を見つけやすくなります。
ここですべての方法をお伝えするのは難しいのですが、いかにして基本軸を固定しておくかがポイントになります。
肩関節屈曲の制限因子はどこにある?
肩関節屈曲を図る際の肢位は気にしていますか?
下の図のように円背の人の肩関節屈曲は120°ほどしかいきません。
試しに円背姿勢になって肩を屈曲してみるとわかるかと思います。
なので、円背の人の肩関節屈曲制限に対するアプローチは肩周りではなく、脊柱に対してアプローチしないと効果がないということです。
だだ、何十年も円背の人の可動範囲を広げるのはなかなか難しいと思います。
ですが、座位で120°、臥位では140°いく場合には、まだ脊柱の伸展性はあるので、アプローチしてみる意味はあるのではないかと思います。
関節可動域制限を知る上でオススメの本
文光堂から出版されている実践MOOK・理学療法プラクティスはあまり小難しいこともなく、より臨床に沿った内容ですので、個人的には超オススメです。
臨床で活かせる知識を学べること間違いなしです。
まとめ
ROM検査の方法は比較的簡単なのですが、意義や目的を問われた場合に困ってしまう実習生や若手療法士は多い印象を受けます。
こう考えてみてはどうでしょうか?
ROM検査はあくまでも手段の一つなのです。
実習生や若手療法士の多くは、手段に対して目的を考えているから悩んでしまうのです。
順番が逆ですよね。
目的があるから、手段の一つであるROM検査を行う。
まずは、「何のために評価をするのか」というところをしっかりと考えていきましょう。
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