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臨床のこと

リハビリを拒否する患者さんについて。療法士はどう対応すれば良い?

投稿日:2016年9月18日 更新日:

理学療法士として日々患者さんと関わる中で、患者さんがリハビリをしてくれない場合があります。

リハビリ拒否の患者さんに悩む療法士は多いのではないでしょうか?

※ちなみにリハビリテーションとは、各人がその人らしい人生を取り戻す過程のことをいいます。この記事で書いているリハビリとは、一般的にいうリハビリの時間(療法士と患者さんとの関わり)を指していると思って読んでいただけると幸いです。

僕も時々ではありますが、リハビリ拒否の強い患者さんを担当することがあります。

どうすればリハビリをしてくれるかなぁ~と思い、あれこれと関わり方を変えてみたりします。

僕は7年くらい理学療法士をしていますが、リハビリ拒否の患者さんでも全くリハビリができなかったという患者さんには一度も出会ったことがありません。(運がよかっただけかもしれませんが・・・)

リハビリ拒否のある患者さんとどのように関わっていけば良いのか、僕なりの見解と方法をお伝えします。

 

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なぜリハビリを拒否するの?

リハビリを拒否する場合には、大きく分けて2通りあると僕は考えています。

①リハビリを拒否する明確な理由がある場合

②リハビリの必要性を感じていない場合

①リハビリを拒否する明確な理由がある場合

「足が痛いから歩きたくない。」「入浴後のため疲れているからリハビリを休みたい。」「家族がこの後来るからリハビリを休みたい。」などなど。

このように理由が明確になっている場合は、実はリハビリをすることが非常に難しいです。なぜなら明確な理由があってリハビリを拒否しているからです。

逆に言えば、拒否する理由さえなくなればリハビリをしてくれるので、たとえ拒否したとしても一時的なものであり、それ程深刻な事態ではありません。

個々の問題を解決していく

「足が痛くて歩けない。だからリハビリはやめておく」と訴えている患者さん。

患者さんの訴えを無視したリハビリは、かえってリハビリへの悪いイメージを与えてしまうので避けるべきです。

この場合は、歩行訓練には固執せず、ベッドサイドで下肢の軽い運動や立つことから始めるのも良いでしょう。

また、入浴後に疲れてリハビリができないのなら、入浴後のリハビリを避ければ済みます。

このようにリハビリを拒否する理由が明確である場合は、対策も打ちやすいです。

②リハビリの必要性を感じていない場合

リハビリを拒否する原因を明確にする必要があるのですが、僕の経験上必ずしも原因を明確にできない場合もあります。

これは、特に高次脳機能障害や認知症などに多く見られます。

このような患者さんの多くは、リハビリを拒否する理由があるのではなく、リハビリをする理由がない(必要性を感じていない)のです。

そんな患者さんの元へ療法士が来て「○○さんリハビリをしましょう〜」と言うものですので、患者さんは「嫌だ!」と言うのです。

さらに療法士は粘って「○○さんは怪我をして足の筋力が落ちています。このままでは歩けなくなりますよ。」と最もな理屈を述べたりします。

しかし、患者さんの多くは、身体が動きにくいことを知っています。頭で理解していなくても、自分の身体ですので動けないことは重々わかっているのです。

脳科学的に考えてみる

少し脳の話をしますが、意思決定や思考をするのは前頭葉(前頭前野)です。この部分が発動することで、はじめて人は意味を持った行動をとります。

上記の療法士の声かけはここに働きかけているのです。

他者がこの部分に働きかけて行動を誘発するのは結構難しくて、患者さんの思考を根底から変えてしまわないといけません。

意思決定をする部分は能動的であるゆえに、他人からの働きかけで変わるほど容易なものではありません。

 

どのように働きかけていけば良いのでしょうか?

情動(感情)に働きかけるのです。

情動とは、快・不快のことです。好きか・嫌いかという基準ですので、そこに理由など存在しません。

恋愛においても、好きな人の理由を明確に答えられない場合もあると思います。「なぜか惹かれてしまうんです。」などという場合には情動が動いているわけです。

 

つまり・・・リハビリを拒否する患者さんの心を動かすのは、理屈ではなく感情(情動)です。

認知行動療法では、行動を変えていくことで感情や思考を変化させる方法もありますが、今回のケースのようにそもそもリハビリを拒否して動いてくれないのではそれは不可能です。

参考記事)

 

情動を司るのは大脳辺縁系ですが、ここが刺激されることで、脳内でドーパミンという快楽物質が放出されます。

ドーパミンは脳への報酬系において重要な役割があり、記憶や行動の学習にも関与しています。

信頼関係を築くには、会う回数を重ねること

何度も見たり聞いたりした物や曲などに、人は好感を持つといわれています。

これは、社会心理学で単純接触効果といいます。

また、少ない回数で長時間会うよりも、短い時間でも頻繁に会った人のほうが人は印象に残りやすいです。

このような人の心理を考えれば、患者さんと会う回数を多くしていけば良いでしょう。

療法士はごくごく自然に病室に顔を出し、一言二言でも患者さんに話しかけるのです。

挨拶だけでも構いません。挨拶くらいなら、快く反応してくれる患者さんは多いです。

そうやって徐々に馴染みの関係を築いていくことで、患者さんは心を開くようになります。

 

「あなた(患者さん)のことを気にかけてますよ。」というメッセージは必ず患者さんにも届きます。

療法士との関わりに心地良さを感じた患者さんは、「あなた(療法士)がいるからリハビリをする。」という理由を見つけるようになります。

「あの療法士の声かけで、なぜか動いてしまう。」

患者さんと馴染みの関係を築くことができれば、ここからが療法士の腕の見せどころでしょう。

とは言っても、何も特別なことはしません。何をするかというと患者さんを褒めるのです。

療法士は、患者さんの行動のきっかけを探してみてください。

トイレに行く。食事にいく。などのように意味づけされたことは必ず行動するはずです。

「○○さん、こんなに動けるんですね!初めて知りました!すごいですね!」良いところをどんどん褒めていきましょう。

リハビリ時間に少し動いてくれるようになれば、また褒めていきます。

まだまだ拒否が残存している間は、上手く動作ができたかよりも行動を褒めてあげるほうが良いです。

「今日はリハビリをよく頑張りましたね。」と伝えましょう。

さらに「疲れたでしょうから、今日はゆっくり休んでくださいね。また楽しみにしています。また来ますね。」と付けくわえると良いでしょう。

患者さんの中で、だんだんリハビリが定着してくれば、動作の内容を褒めていきます。

ただし、上手くいっていないのにデタラメに褒めてばかりではいけません。

できていないところはそっとアドバイスをして、「でも!ここの部分は今日は良かったですよ!」と全力で伝えましょう。

患者さんの心の中に「何故かわからないけど、あの療法士の人の励ましが嬉しくて動いてしまう。」となれば大成功です。

向上思考だけがリハビリではない

勘違いしないでいただきたいのが、リハビリの目的は身体機能の向上だけではないということです。

なぜなら、人の命は永遠ではないからです。

 

末期がんの患者さんがリハビリを拒否するのはなぜ?

身体は良くなるばかりでなく、弱っていくこともあります。

末期がんの患者さんに、身体が少しでも良くなるようにと運動を強要するのは、療法士のエゴどころか患者さんの残りの人生を邪魔する行為ともいえます。

この場合の運動療法は患者さんにとって相当な負担ですし、拒否されても不思議ではありません。

リハビリの本来の目的は、その人らしい生活をデザインしていくことです。

これは、超高齢者においても同じことがいえます。

年齢とともに、身体や精神は弱っていくことを忘れてはいけません。

そういった患者さんに無理やり運動を強いるのではなく、その人らしく安楽に安心した生活を送ることができるように支援していくことが療法士に求められます。

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僕が一番難渋した症例

冒頭でも書いていますが、僕の経験上リハビリ拒否の患者さんに全く太刀打ちができなかったということは一度もありません。

とはいえ、今から数年前に担当した患者さんにはとても悩まされました。

脳梗塞後で重度の認知症があり、暴言、ろうべん(便を手でいじる)、介護拒否などの認知症における周辺症状がかなりみられた患者さんでした。

当初は、全く触らせても、しゃべってもくれませんでした。「もういい!」の一点張りです。

幸いと言いますか、毎日便を手でいじるものですから、毎日服が便で汚染されて、服の着替えを手伝うというのはさせてもらえました。

 

入院してから約1ヵ月くらいそんな感じでしたね。その間はほとんど身体機能にアプローチできませんでしたので、動作能力は全然変化がありませんでした。

毎日毎日患者さんの元に顔を出していると、入院1ヵ月後から徐々に起立や歩行練習を決まった回数してくれるようになり、そこからは飛躍的に身体機能が上がってきました。トイレにも自分で行くようになり、周辺症状は徐々になくなっていきました。

僕は、この患者さんを通して身体機能よりも先に精神機能の評価と治療が必要場合があるということを学びました。

まとめ

リハビリ拒否の患者さんには、拒否する様々な理由があると思います。

精神論的な話をすると、リハビリ拒否があっても療法士の人は絶対に諦めないことです。

患者さんの心理を汲み取り、理解する努力が必要です。

必ず何かの糸口が見つかるはずですので、諦めずに患者さんと関わってみてほしいです。

 

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