注意障害に対するリハビリ5つのアプローチ方法を解説します。
まずは、注意障害の基礎的なところから見ていただくと理解が深まると思います。
注意障害の基礎知識はこちら▼
専門職は、患者さんの注意機能が今どういう状態なのか、何に注意を向けられているのかを適切に見極めないといけません。
注意障害のリハビリは、闇雲に課題を提供するのではありません。
まずは覚醒度を上げることから始め、症状に合わせて介入していきます。
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まずは覚醒度を上げる
前回の記事で、意識には3つの階層があると説明しました。その中で覚醒は最も低次な領域です。
事象に注意を向けるためには、まず意識がはっきりしている必要があります。
脳損傷の患者さんでは、脳へのダメージにより、ボーっしていたり、疲れやすい(神経疲労)ことが多いです。
覚醒度が低下している原因は、脳損傷のダメージ、寝不足、刺激量の低下によるアウェアネスの低下、睡眠薬の影響などが挙げられます。
覚醒度が低下している原因を探り、それに合わせた関わりが必要です。
ポイントは、刺激量を徐々に増やしていくことです。
そこから、本人が興味のある写真や音楽、テレビなどを利用して、外部刺激と自己との繋がりを深めていきます。もちろん、他者からの声掛けや会話をするのも有効な手段です。
感情の安定と意識づけ
注意障害への意識性を高めるために、患者さんに障害像を具体的に説明する必要があります。
このとき気をつけないといけないのが、患者さんの精神状態、つまり感情が安定しているかに注目します。
注意障害をもつ患者さんは「自分はどこも悪くない」と言う方がほとんどです。
「今日は体調が悪い」「気になることがある」という場合も、注意課題に対して積極的になれないことがあります。
感情が安定していることで、自己の問題点に気づいて修正しようとする能動的な活動がみられるようになります。
いきなり注意課題を課すのではなく、感情が安定しているのか、意識づけができるのかに注目すべきです。
注意障害のリハビリ5つのアプローチ方法
注意障害への基本的なアプローチ方法として、①直接的介入、②代償的介入、③能力補填的介入、④行動的介入、⑤環境的介入の5つがあります。
①直接的介入
非特異的介入、特異的介入、段階的介入、制御負荷的介入があります。
非特異的介入
注意を分類別にアプローチするのではなく、注意を全般的にアプローチする方法です。
例えば、単純反応課題や複雑(選択)反応時間課題などがあります。
いわゆる「注意をすること」を強要する課題になります。
特異的介入
障害された注意機能に個別で働きかけます。
選択性注意 | 選択抹消課題 |
持続性注意 | 目標刺激の持続的課題 |
転動性注意 | 交代制課題 |
分配性注意 | 二重課題 |
段階的介入
下位から上位へボトムアップ的に介入していきます。
①外部刺激への適切な注意
②外部刺激への注意の持続的な集中
③外部刺激への探査と選択
④内部刺激への注意
⑤反応と行動の調節
制御負荷的介入
「注意機能は、他の諸機能への制御にある」との考えの下、課題の内容ではなく、課題の遂行形式を意図的に変化させます。
つまり、速度・持続度・正確度を操作し、制御機能に負荷をかける方法です。
例えば、課題をできるだけ速く遂行したり(最大速度)、やりやすい速度で遂行したり(自然速度)、できるだけゆっくり遂行したり(最小速度)します。
②代償的介入
注意機能以外の機能を利用して、注意障害を補う方法です。
例えば、記憶は比較的保たれている場合、注意しないといけない内容を課題遂行前に意識的に口に出してみます(自己教授法)。
また、注意の持続が難しい場合は、自分のペースを保つことをルールとして、疲れたら休憩することを教えます。
転動性の注意障害の場合には、事前にいくつかの課題内容を書き留め、一つの課題に執着しないようにします。
③能力補填的介入
何らかの外的手がかりを利用し、注意障害の影響を補う方法です。
例えば、スマホなどでアラームを設定しておいて、アラームで行動への注意を喚起したりします。
カレンダーに印をつけておくもの良いです。
④行動的介入
日常生活活動中に観察される様々な注意行動に対して、細かく指示をしていきます。
車いすからベッドに移乗することを例にすると、
「車いすはこの位置に設置して、その次にブレーキをかけます。フットレストから足を下して、両手でベッド柵を掴んでから立ち上がりましょう」と指示を与えます。
なぜそれをしないといけないのかの動機づけも大切です。そのためには、目的をもった説明をしなければいけません。
また、失敗したり困惑してしまったときの励ましや鎮静的指示も欠かせません。
日常生活にそれが反映されたときは、注意行動への積極的な認めによる報酬的指示も大切です。
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⑤環境的介入
日常生活の中で、注意が逸れそうな事象はなるべく少なくします。
整理整頓したり、静かな環境、妨害刺激が入らないように配慮します。
また、必要な注意行動には目印をつけたりします。
病院でよくするのが、車いすのブレーキを目立たせるためにブレーキにサランラップの芯を付けたりします。
また、乗り移りの際には、車いすの設置位置をマーキングして目立たせることもあります。
その患者さんの症状に合わせて、環境を設定していきます。
注意障害のリハビリで注意すること
注意障害のリハビリの最終的な目標は、日常生活でそれが活かされていることです。そこに重きを置くべきです。
例えば、机上課題の点数が向上したからといって、それが日常生活で反映されていなければ何の意味もありません。
机上課題だけでなく、身体活動を伴う課題においても同様です。
常に、日常生活で必要な課題は何かという視点から入り、それを邪魔しているものは何かを探っていく姿勢が必要です。
まとめ
注意障害のリハビリ、5つの介入方法を解説しました。
注意機能は日常生活活動において欠かせない機能であることを考えると、理学療法士も知っておかないといけません。
もし、あまり意識してなかったなぁという療法士の方がいれば、是非とも参考にしていただきたいと思います。
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