病院でリハビリの仕事をしていると、「自転車で転んで大腿骨を骨折した」「また自転車に乗りたいけど乗れるかなぁ?」という患者さんがとても多いと感じています。
実際、リハビリの時間内に自転車の練習をすることもあります。
練習をしてみて「これなら退院してから乗っても大丈夫でしょう!」と言うこともあれば、「危ないから止めどきじゃないかな?」と助言することもあります。
理学療法士の視点から、高齢者が安全に自転車に乗る方法、自転車の選び方など解説していきます。
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自転車を乗る際に必要な身体機能
自転車は、ペダルを両足で漕ぐことで駆動力が得られますので、当然太もも周りの筋力は必須です。
左右への方向を決めるハンドルを操作したり、ブレーキを使用するための両腕や手の機能が必要になります。
僕たちが普通乗る自転車といえば二輪式のものが主流ですので、左右へのバランス能力も必要になります。
また、自転車を操作できればOKというわけではなく、周りの環境に柔軟に対応するための判断力や注意力、空間認知なども必要です。特に脳卒中後の人の場合は、この辺も自転車に乗ってもよいかの判断材料になります。
膝はどのくらい曲がればペダルを漕げる?
これは膝を手術した患者さんによくみられる問題です。
人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)を施行した患者さんでは、術式や侵襲の程度により膝の最大屈曲角度が110~130°となります。
これは、人工関節の構造上仕方がないことです。
膝が120°曲がれば、自転車に乗れるようになります。
ただし、ギリギリ120°の程度では、股関節を屈曲させ代償することも必要です。
TKAをした患者さんの場合は、怪我をして手術したわけではなくて、膝が痛くてTKAの手術を受けています。
なので、転倒して入院している患者さんに比べて、そもそもバランス機能は保たれている場合が多いです。
僕の経験では、TKAを施行した患者さんのほとんどが自転車に乗れるようになっています。
人工骨頭置換術やTHAでも自転車は乗れるの?
人工骨頭置換術や人工関節股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)の手術をした後でも、基本的には乗ることができますが、脱臼に注意する必要があります。
高齢者の場合では、両足が床に接地するくらいのサドルの高さが安全なのですが、それだとペダルを漕ぐ際に股関節が深く曲がってしまいます。
禁忌肢位については「人工骨頭置換術やTHAの脱臼予防とリハビリ!脱臼のメカニズムと禁忌肢位を図で解説」で詳しく解説しています。
膝を外側に逃がしながらペダルを漕ぎ、膝が内側に入らないように注意しながら乗ると良いです。
ゆっくり走っているときに転倒しやすい
二輪式の自転車の場合ですが、転倒しやすいときは走行速度が遅くなったときです。
試しに、100円玉を床の上で前方に向かって転がしてみてください。スピードが乗っているときは、左右に転倒しないですよね。だんだんスピードが落ちてきたときに、左右どちらかにボテっと転がりますよね。
自転車も同じことで、曲がり角などで方向を変える際や走りだし、止まり際などゆっくり走っているときに転倒してしまうことが多いです。
僕の個人的な印象ですが、止まり際に転倒する人が多いんじゃないかと思います。
あとは、ケンケン乗りも転倒する原因になります。思うように後ろ足が上がらず、フレームに足が引っ掛かることもありますので止めておいたほうが良いでしょう。
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リハビリでは、どうやって自転車の練習を進める?
理学療法評価により、上記の身体機能に不足がないかを判断します。
TKAなどのように膝を手術した患者さんは、入院当初膝が曲がりにくいことがほとんどです。ですので、まずは膝の屈曲可動域の改善に努めます。
まずはエアロバイクで練習
膝の屈曲角度が120°に近づいてきたら、エアロバイクなどを使って模擬的にペダルを漕げるか確認します。
(エアロバイク)
始めは、膝の屈曲角度を減らすため、サドル(イス)の高さを高めに設定してペダルを漕ぐ練習をします。慣れてきたら、徐々にサドルの高さを下げていきます。
膝の屈曲角度がギリギリ120°の人は、上で説明した股関節の代償を習得するように練習します。
実際自転車に乗る練習を始める
エアロバイクで自信がつけば、実際屋外で自転車に乗る練習をします。
始めは、直線の走行を何度も練習します。
慣れてくれば、人通りの少ない道を走行してみます。
※注意:自転車走行の練習による転倒は避けなければなりません。付添いの人は少々しんどいかもしれませんが、患者さんが自転車走行の練習をしている際はいつでも支えられる位置にいましょう。
自転車の種類
自転車はいろんな種類があり、身体機能の不足を補ってくれるものもあります。
股関節や膝が曲がりにくい人におススメ
こちらの自転車はペダルの回転率を調節でき、股関節や膝が曲がりにくい人でも乗ることができます。
引用)http://www.level-cycle.com/item/yu-u.html
値段は120,000円・・・まぁまぁしますね。
バランス能力が低い(ふらつきやすい)人におススメ
バランス機能に問題がある場合は、シニア向けの三輪自転車を検討すると良いです。
電動の三輪自転車もあります。
高齢者による自転車事故の実態
自転車で事故を起こした場合、若年層では死亡するよりも負傷するケースのほうが多いようですが、40歳以降になると死亡者の割合が高くなっています。
特に65歳以上の高齢者の死亡率は約6割とのデータがあります。
自転車事故で最も多いのが出会い頭です。自転車は移動の自由度が高いのが大きなメリットですが、曲がり角から突然人が出てくるなどの事故が多いようです。
また、負傷部位で最も多いのが頭部です。頭部は言うまでもなく大事な部位ですので、転倒により強い衝撃が加わると命に関わります。
そのため、ヘルメットを着用することも大事なことです。
事実、ヘルメットを着用することで、自転車事故の死亡者率も減少しています。
また、自動車の運転免許証を保有していない人のほうが自転車の事故が多いようです。交通ルールを学んぶことも自転車事故を減らす要因になります。
まとめ
高齢者が安全に自転車に乗る方法について解説しました。
まずは、判断力や注意力などを含む身体機能が十分あるかが大事な要素です。
次に、身体機能の不足を自転車の形状で補うことができるか最終的に判断されます。
もし、身体機能の不足を自転車で補うことができなければ、自転車に乗ることを諦める勇気も必要です。
自転車好きはともかく、自転車は移動手段の一つにすぎませんので、他の移動手段や目的を果たす方法を考えた方が良いかと思います。
くれぐれも事故のないようにしましょうね。