疼痛と深いつながりがあるプラシーボとノーシーボについて研究報告を踏まえて解説します。
実は疼痛を緩和させる方法として、このプラシーボを利用することもできます。
また、プラシーボは疼痛だけでなく、あらゆる症状にも効果を発揮します。
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プラシーボとは
プラシーボ効果は、「偽薬効果」とも呼ばれ、偽の薬を服用したり、偽の手術受けると、症状が和らぐといったものです。
プラシーボは、もともとラテン語からきており、「喜ばせる」「癒し」という意味があります。
プラシーボ効果を検証した研究報告
1990年イェール大学のラルフ・ホルヴィッツらによる実験です。
心臓発作を起こした2175人を対象に、ベータブロッカー剤とプラシーボの効果を調べました。
ベータブロッカー剤とは、心臓の動きを滑らかにして、狭心症、不整脈などを治療する薬です。
心臓発作の後1年間にわたって、服用状況を調べ、その効果を調べました。
その結果、ベータブロッカー剤をちゃんと飲んだ人の死亡率は、怠けて飲まなかった人の3分の1であったとのことです。
一方で、砂糖を入れたカプセル(プラシーボ)を定期的に飲んだ人の死亡率は、不定期にしか飲まなかった人の3分の1であったとのことです。
また、プラシーボ定期的服用者の死亡率は、ベータブロッカー剤不定期服用者の死亡率を比べて、半分以下だったとのことです。
つまり、ベータブロッカーを怠けて飲まなかった人の死亡率が最も高く、次いでプラシーボ定期服用者、ベータブロッカー剤定期服用者となっていました。
薬を怠けて飲まない人よりも、嘘の薬でもちゃんと飲んだ人のほうが死亡率が低いというのはまさにプラシーボ効果が発揮された結果といえます。
伝説となったプラシーボ効果の話
1957年米国カリフォルニアのロングビーチ病院に、リンパ腫の末期癌のライトが入院していました。
彼を診たフィリップ・ウェスト医師は、余命数日と診断しました。
この病院は、新しく開発されたクレビオゼンという癌治療薬の臨床研究の一つとなっていました。
ライトは、このクレビオゼンという薬を聞いて、癌治療に効果があると頑なに信じました。
この薬を注射した3日後には、腫瘍は半分になり、10日後には癌の症状は消え、自家用飛行機を操縦するまでになったのです。
しかし、ライトは自分が注射したクレビオゼンは効果は確かではないという新聞記事を読み、効果を疑い始めました。
すると、次第に元気がなくなり、癌も勢いを取り戻してしまいました。
ウエスト医師は、「そんな記事を信じてはいけない、次に注射する薬は効果は2倍です」と伝えました。
すると、ライトは再び飛行機の操縦をするまでに回復しました。
またまたさらに、2ヶ月後ライトは新聞記事でアメリカの医学会がクレビオゼンは全く効果がないとしました。
その記事を読んだライトは、数日後に入院、その2日後に死んでしまいました。
嘘のような話ですが、実際臨床でもこれってプラシーボじゃない?って思うことが結構あります。
まさに「信じる者は救われる」ということでしょうか。
ノーシーボとは
プラシーボはプラスの面だけでなく、マイナスの面もあります。
例えば、手術前に医師から「術後は痛みが強くでるかもしれません」などと聞かされると、術後本当に痛みが強くでたりします。
期待や希望がプラシーボ効果をもたらすのとは逆に、悲観的な見通しや失望が否定的結果を招いてしまことがあります。
このことをノーシーボ効果といいます。
ノーシーボ効果を表した有名な話
マサチューセッツ大学医学部にジョン・カバットジンという大学院生がいました。
初めて担当した患者さんは、中年の女性で、彼女は心臓の右側の弁に異常がありました。
彼女の病態は、仕事や日常生活に支障をきたすほどではありませんでした。
ある時、彼女の長年にわたる主治医が、彼女と挨拶を交わした後、見学に来ていた大勢の医師に向かって、「彼女はTSだ」と言い、部屋を出ていきました。
主治医が部屋を去った直後から、彼女の容体が一変しました。
彼女は、強い不安に怯え、呼吸も脈拍も速くなって、肺や心臓にも急変を起こしました。
彼女は「自分はTS(ターミナル・シチュエーション=末期状態)」と言われたと思ったそうです。
実は、医師は「TS(三尖弁狭窄症)だ」と言っただけだったのです。
カバットたち研修生は、彼女の誤解を解くため一生懸命に説明しました。
しかし、彼女の強い不安は消えず、症状は悪化していき、やがて肺浮腫が広がって、彼女は死んでしまいました。
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言葉のよるプラシーボ効果
プラシーボは言葉でも効果を発揮します。
いわゆるプラシーボなきプラシーボ効果というものです。
言葉によるプラシーボ効果を調べた研究報告
1987年イギリスの病院である研究報告をご紹介します。
様々な不定愁訴を訴える患者さんを検査し、重大な病気がないことを確認したうえで、200人を選び、100人ずつの2群に無作為に分けました。
一方には、医師から「具合が悪いですね。でも2.3日で完全によくなりますよ」と患者さんに伝え、肯定的態度をとります。
もう一方には、「色々調べましたが、原因がはっきりしません」と患者さんに伝え、否定的態度をとります。
また、それぞれの2群をさらに50人ずつに分け、一方には偽薬(プラシーボ)、もう一方には何も処方しませんでした。
2週間後の症状では、偽薬を飲んだか飲まなかったかは症状の変化と関連がありませんでした。
医師の肯定的態度では、64%が快癒、否定的態度では39%が快癒したと報告されています。
つまり、薬を処方されなくても、医師の肯定的態度によって症状が軽減したことになります。
医療従事者もプラシーボ効果を利用したい
これらの研究報告の事実は、僕ら医療従事者にとって非常に重要な事実だと思います。
この薬は◯◯に効くかどうかわかりませんよ。という態度は、患者さんの期待と希望を奪い、プラシーボが効果を発揮する機会を奪ってしまうことになります。
逆に、これは◯◯の症状に効きますよ。という肯定的態度は、患者さんの期待と希望を生み、治療効果を最大限に発揮してくれます。
患者さんに嘘をつく必要はないと思いますが、期待と希望を持たせる態度が大事ということです。
プラシーボ効果を最大限に発揮するには?
信頼関係がなにより大切です。
●患者さんの訴えにしっかり耳を傾けること
●自分の治療に自信を持つこと
●肯定的な情報を患者さんに与えること
よい人間関係は治療効果を最大限に引き出してくれます。
プラシーボのキーワード
安心・期待・希望
ノーシーボのキーワード
不安・絶望・孤独
おすすめ書籍
こちらの書籍は、プラシーボ効果についてとてもわかりやすく説明されています。
今回ご紹介した研究報告以外にも興味深い内容も記されています。
是非一度読んでみてください。
まとめ
プラシーボ効果を臨床現場でも実感することが多いです。
しかも、プラシーボ事態に痛みを抑えるメカニズムが証明されています。
痛みを抑える理論を参照してください。
また、逆のノーシーボ効果もよく経験するので、発言には気をつけていきたいところです。