前回に引き続き、今回は前十字靭帯のリハビリをご紹介します。
前十字靭帯(ACL)損傷の原因と治療)
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受傷直後
受傷直後は、炎症による痛み、腫脹(はれ)、可動域制限などがあります。
この時期は、関節内出血を起こしていますので、腫脹軽減、関節可動域の改善を目的にアイシングを行います。
だいたい2~4週くらいで腫脹や痛みは軽減します。
軽減してくれば、愛護的に関節可動域訓練(膝の曲げ伸ばし)や筋力維持を目的に膝関節周囲の筋力増強訓練を開始します。
手術前
術後に後遺症を残さない、またスムーズに術後リハビリを遂行するにあたっては術前のリハビリは大切です。
主な目的は、関節可動域の改善、筋力増強(特に大腿四頭筋やハムストリングス)、固有感覚の維持となります。
前十字靭帯断裂では、固有感覚(特に運動覚)が低下している場合が多いです。
特に疼痛や不安定感、膝崩れを起こしやすい人は固有感覚が低下しています。
固有感覚の改善には、エルゴメーターでの運動が良いとされています。
手術適応の場合でも、術前のジョギングは可能な場合が多いです。ただし、無理は禁物です。
手術は炎症や可動域制限が改善する受傷後3週以降に行うのが望ましいとされています。
術後1日~
術直後、再建した靭帯の強度は正常の20~30%程度です。
この時期は再断裂の危険がありますので、適切な運動を身につけましょう。
炎症の改善
術直後は、炎症症状(熱感・発赤・腫脹)などがみられ、疼痛がある場合が多いです。
そのため、アイシングを実施します。冷却することで、疼痛を緩和させる効果があります。ただし、関節可動域の改善や術後出血の軽減には効果はありません。
RICE処置の詳しい解説)
関節可動域の改善
関節可動域改善を目的に自動介助運動やCPMなどの機械により膝の屈伸運動が開始されます。
膝蓋骨の動きも改善しておきましょう。
膝蓋骨を各方向へ動かします。
膝蓋骨は膝の屈伸運動時に一緒に動くため、膝蓋骨の動きの改善は必須です。
筋力増強
免荷期間は筋力低下が必ず起きてしまいます。術直後は、膝関節の可動域が十分ではないので、膝を伸ばした状態から脚を上方に持ち上げたり、足首を動かすなど、ベッド上でできる運動をしておきましょう。
膝が曲がるようになってくれば、膝関節の筋力増強訓練を開始します。
主に大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力増強を図ります。
※注意:膝関節屈曲70°よりも伸びていると大腿四頭筋は脛骨を前方へ引き出す働き(quadriceps neutral angle)があります。
膝関節屈曲70°以上の範囲で、膝関節を伸展ですれば脛骨の後方移動を手伝ってくれます。
引用)1
大腿四頭筋
下の図のように脛骨近位にゴムバンドなどで抵抗を加えると、脛骨前方引き出しを制動しながら、大腿四頭筋を鍛えられます。
引用)2
ハムストリング
ハムストリングスは脛骨後方移動を手伝う働きがあります。
特に半腱様筋・薄筋の腱を採取した場合、深屈曲の弱化があります。下の図のようにボールを挟み膝関節の深屈曲をします。
引用)1
※注意:半腱様筋・薄筋の再建術を行っている場合、腱を採取した場所に疼痛がでる場合があります。
ハムストリングスは股関節伸展にも働きますので、下の図のように股関節伸展運動をします。
引用)2
荷重訓練
目安:
術後7日~1/4荷重
14日〜 1/2荷重
21日〜 3/4荷重
28日〜 全荷重
一般的には、病院の術式や治療方針で荷重訓練が進んでいきます。
術後1カ月~
この時期になれば完全荷重になることが多いと思います。ただし、いきなり走ったり、飛んだりすることはできません。
9~12週くらいから徐々に再建した靭帯の強度が増してきます。
この時期では、上の図で説明したquadriceps neutral angleの原理から膝関節屈曲75°以上のハーフスクワットが安全とされています。
術後3カ月~
ジョギング開始、片脚バランス、有酸素運動などを開始します。
競技復帰に向けては、全身持久力も向上させておく必要があります。
エアロバイクや段差昇降、坂道でのジョギングなども取り入れると良いでしょう。
術後5カ月~
各種目別の訓練を開始します。この時期はまだ固有感覚(特に運動覚)が低下しているとの報告があります。
運動覚が低下していると、思っている動きと実際の動きに誤差が生じてしまいます。
固有感覚の改善には、エアロバイクやバランスクッション(下図)を用いる方法が効果的です。
バランスクッション上のスクワット
引用)2
ステップ運動
前十字靭帯は大腿骨と脛骨の捻じれによって損傷しやすいので、再損傷の予防が大切です。
方向転換時の爪先や膝の向きを意識し、無意識でも動作ができるように体で学習しましょう。
引用)1
術後6カ月~
待ちに待った競技復帰の時期ですが、あくまでも目安です。
競技に復帰していきなり最高のパフォーマンスを発揮するのは難しいですし、再断裂のリスクもまだあります。
筋力向上、持久力向上、固有感覚の改善を図り、各種目を意識したステップ動作などで膝関節の捻じれを防ぐ訓練が重要です。
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装具は着けておいたほうが良い
特に術後2カ月までは、靭帯の強度が弱いため装具をつけた状態でトレーニングをするほうが良いです。
膝の装具はDONJOY(ドンジョイ)といわれるものを使用します。
半腱様筋の再建術の場合、装具なしでは10月カ月後の骨孔拡大率は優位に大きかったと報告されています。つまり、再建したところが緩んでいることを意味します。
術後の靭帯の強度の弱さ、固有感覚の低下などを考慮すると装具は着けておいたほうが良いです。
ただ、DONJOYはかなりゴツいです。
パフォーマンスを気にするなら、再建した靭帯の強度や固有感覚が改善され、疼痛、膝不安定感がなくなれば、動きやすいサポーターに変更しても良いでしょう。
こちら↓はDONJOYよりは膝の固定性は弱くなりますが、その分動きを阻害することはなくなります。
前十字靭帯再建術でどのくらいの強度があるのか?
一致した見解はありませんが、最終的には正常と比べると約80%の強度があるといわれています。
まとめ
前十靭帯損傷のリハビリをまとめました。
競技復帰までは最短でも約6カ月の時間を要します。特に学生であれば、青春の真っただ中で大事な時間をリハビリにあてることになるかと思います。
焦る気持ちも当然あるでしょう。ですが、前十字靭帯損傷後、しばらくは再断裂のリスクがあります。
焦って競技に復帰するとかえってよくない結果になる可能性があります。
競技復帰まで、いかに効率良くリハビリを進めていくか、競技復帰後は再断裂予防の大切さをお伝えしました。
引用・参考文献
1)整形外科リハビリテーション学会:整形外科運動療法ナビゲーション 下肢・体幹p120.127. 2010.2
2)細田多穂・柳澤健:理学療法ハンドブック第3版 疾患別・理学療法基本プログラムp341-345.2010.2
前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン 2012 改訂第2版
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